上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。

【プロ投資家の教え】仮想通貨は資産として有効か?Photo: Adobe Stock

1オンスの金は、どれだけ丁寧に磨いても永久に1オンスの金にしかならない

 世の中には何も生まないのに高い価格で取引される資産があります。17世紀のチューリップのように、何も生まないけれど他の投資家がもっと高く買ってくれるのではないか、ということに期待して買う資産です。この類型に入る代表的な資産として金があります。昨今のインフレ懸念で通貨の価値が下がるという恐怖を感じている投資家は、この手の資産に手を出します。しかし金は宝飾品や一部の産業用に使われる以外、用途が限られています。

 金の価値について、ウォーレン・バフェットは2011年の「株主への手紙」の中で、次のような問いかけをしています。

「これまでに採掘された金をすべて手に入れることができたとすると、17万トン、68フィート(約20.7メートル)の立方体になります。価格にして9.6兆ドルです。その金で、『全米の農地すべて+エクソンモービル10社分』を購入することができ、さらに1兆ドルの小遣いが手に入ります。言うまでもなく、全米の農地とエクソンモービル社は毎年、目も眩むような農作物と利益を創出します。あなたならば、『17万トンの金の立方体』と『全米の農地+エクソンモービル10社分』のどちらを選びますか?」

 いかがでしょうか? 答えは自明ですよね。1オンスの金は、どれだけ丁寧に磨いても永久に1オンスの金にしかなりません。

 同じような資産に仮想通貨があります。こちらもドル、ユーロ、円などの法定通貨に対する信用力のゆらぎをテーマに価格が激しく変動します。これも所詮「何も生まない」資産なのです。この種の投機(私の定義では、「価格」のみに着目し、安く買って高く売ることを目指して資金を投じるものは、すべて「投機」です)は、バケツリレーのようにそのバケツをつないでくれる次の持ち手が絶え間なく現れてくれることが必要です。その持ち手は何も生まないバケツを「次に運びたい」といってくれる後続の持ち手が現れるのを期待しているだけです。でもいつかは「次の持ち手」はいなくなってしまうのです。

 これがバブルの崩壊です。値動きが激しいのでギャンブルとしては楽しいですが、それで資産形成を行うのは不可能ですし、現状、決済手段として利用するにも向きません。

 世の中が移り変わる中で、法定通貨の信用がさらに落ち、仮に仮想通貨が決済手段として使われるようになるとすれば、次に説明する「貨幣ベースの資産」へ格上げされるかもしれませんが、今は時期尚早です。

奥野一成(おくの・かずしげ)

投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー

【プロ投資家の教え】仮想通貨は資産として有効か?

農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。

 

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