60歳までお金を引き出せない
iDeCoは老後の自分への仕送り

 一方、iDeCoに関して井上氏自身は利用を控えめにしているそう。

「運用益が非課税、掛け金が全額所得控除になる税制優遇メリットはありますが、原則としてiDeCoは60歳になるまでお金を引き出すことができません。老後資金という意味ではメリットといえますが、『お金を60歳まで完全に拘束されてしまう』のは年齢やライフステージによってはリスクでもあると考えています」

 人生を豊かにするために、どこでいつお金を使うのかは重要な選択だ。「老後のため」「未来の自分のため」と投資や貯蓄を行うことは大切なことだが、一方でお金には今という時間を豊かにするという役目もある。

「投資は老後の自分への仕送り。老後資金を早めに用意できれば、仕事は早期リタイアできます。逆に長く働けそうだ、という場合は老後への仕送り額を減らして、今に使えるお金が増えます。なので、逆算するのが一番わかりやすい。年収と今後、何年働けるか働きたいか。将来的に年金は2~3割減ると想定されるので、今の年金計算式に0.8掛けぐらいの金額で1カ月生活するとして、不足額とそれが退職後に何年続くのかを計算して、老後資金の目標額を出しましょう」

 お金があれば安心するし、実際大抵のことはなんとかなるが、「そのために現在を犠牲に我慢し続けたとして、人生は豊かになったといえるのか」と井上氏は疑問を呈する。

「本当にお金に自由な人は、自分を喜ばせるお金の使い方を知っている人です。何がいい人生かは人それぞれですが、今も楽しみつつ老後も困らないのが一番。やみくもにお金をためるのではなく本当に自分に必要な老後資金を考えて、その額だけ老後へ仕送りすればいい」

 結局のところ投資も人生も、いつ何が起きるかは誰にもわからない。未来への投資は重要だが、何よりも確実な「今」をないがしろにすべきではないということだろうか。