投資初心者ほどやりがちだが、絶対に飛びついてはいけない投資手法がある──。そう語るのは、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏だ。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニア。奥野氏の思考法を余すところなく解説した新刊『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』も、発売当初から話題を呼んでいる。「お金に困らない人生を送るには、どうしたらいいのか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。投資の疑問・お金の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)

銀行口座に預金するのは「現金に投資をしている」のと同じ

──最近、「投資をはじめよう」というワードを見かける機会が増えましたが、そもそも「投資って何?」「やらなきゃダメなの?」と、疑問を抱いている人も多いと思います。「株式投資=損しそうで怖い」みたいなイメージも強いじゃないですか。

奥野一成(以下、奥野):まず、その思い込みが間違ってますね(笑)。投資をすると損するどころか、投資しない方が損になる場合もあるんです。

──投資しないとは、つまり、自分の持っている現金を銀行口座に蓄えておく、ということですよね。たしかに得はしないけど、リスクもないので、少なくとも損することはないのでは?

奥野:そう考える人は多いかもしれませんが、実は、それこそが「投資」の大きな誤解なんです。「現金を持つ」イコール「投資をしていない」のではなく、「現金に投資をしている」ということなんですよ。

──現金に投資!?

奥野:厳密に言えば、「投資をしない」という状態はありえないんです。その投資先が株式なのか現金なのか、外貨なのか円なのか、という違いがあるだけで、実は私たちは常に、広義としての「投資」を行なっているんですよ。

 給料として会社からもらったお金をそのまま「円」として貯金する=「投資をしない」という選択、じゃないんです。無意識のうちに、「私は円に投資します」という選択をしてるんですよ。

──うわ、そうか、そういうことか。

奥野:私からすると、むしろ円に投資し続ける方がよっぽど冒険じゃないかなと(笑)。

 最近の、円安の状況をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、いま、日本円が、ここ5ヵ月で約30%減価していますよね。かつて100円で買えていたはずのものが、145円~150円払わないと手に入らない状態になっている。

 現金そのものが減るわけではないし、預金通帳に書かれた「残高:〇〇万円」という数字は変わりません。でも、「『円』という通貨の購買力」が落ちているのは、紛れもない事実。現金をそのまま持ち続ける「元本保全主義」は、機能しなくなってきたんです。

「投資」の本質とは、企業のオーナーになること

──とはいえ、株式投資って、売ったり買ったりいろいろしなきゃいけなくて、リスクが大きそうなイメージがありますが。

奥野:「投資」という言葉には、株を売買したその差益で儲けるイメージがあるかもしれませんが、私からすれば、それは「投資」ではなく「投機」、つまりマネーゲームやギャンブルと同じ。投資とは根本的に違います。

 自分が働くのではなく、企業のオーナーになるのが「投資」の本質です。投資先の人に働いてもらうことで、そこから得られた利益の一部を分配してもらうのが真の「資本家」です。毎日チャートと睨めっこをして、売り買いを繰り返して……と動き回っていたのでは、自分であくせく働く「労働者」と何ら変わりません。

──たしかに。売ったり買ったりするのに時間も労力も必要ですもんね。

奥野:私が日々取り組んでいる「長期厳選投資」は、「売らなくていい会社しか買わない」が基本です。売ることを前提に選ぶのではなく、10年、20年、あるいは50年という時間の流れに耐えうる強さを持っている、永久に持ち続けていたいと思う企業を見定める。本質的な投資とは、そういうものなんです。