「高配当銘柄」への投資は危険!
アマゾンが無配当経営を続けるワケ

──投資初心者がやりがちな「投資のミス」は何でしょうか。「これだけはやるな!」というものが何かあれば、教えてください。

奥野:みんな好きだけれどやらない方がいいと思うのは、配当利回りの高い、いわゆる「高配当株」を選んで投資すること。また、その亜流になりますが、「株主優待」の内容で選ぶのもあまりおすすめできません。

──「高配当」「株主優待」で選ぶ、というのはむしろメジャーな印象がありますが。

奥野:「利益が出ているから高配当を出せている! だから安心!」などという自称専門家もいますが、この手の話をする人は、投資の本質を知らなさすぎます。こういうことをもっともらしく語る人の言うことは、信用しない方がいいですね。本当にいい企業の中には、配当をいっさい出さないところもたくさんあるんですよ。

──そうなんですか。儲かっているところほど配当を出すものなのかと。

奥野:ご存じない人も多いんですが、たとえば、成長期のマイクロソフトは、ずっと無配当でした。あとはアマゾンも、配当を出したことはありません。それどころか、最近になってようやく利益を出すようになったくらいです。

──アマゾン、あんなに成長している企業なのに、利益ゼロだったんですか?

奥野:利益を出せなかったのではなく、あえて「出さなかった」んです。いつでも利益を出せる状態にはなっていたんですが、競争優位性を高めるため、参入障壁を築くために、どんどん投資することを優先し、利益を出すことを先延ばしにしてきた。

 ほら、たとえばアマゾンには「アマゾンプライム」という会員サービスがありますよね。年間プラン4900円(税込)または月間プラン500円(税込)で送料が無料になったり、映像コンテンツが見放題になったり……。月に1回買い物をすれば、「元が取れた」感覚になるでしょ。

──そうですね。「よくこんなに安い値段で運営できてるなあ」といつも不思議です。

奥野:もちろんそれって、利益になってないんですよ(笑)。こっちが「元が取れた」と思うってことは、アマゾンは得してないはずなんです。

──えっ。

奥野:実は、これこそがアマゾンの、圧倒的な競争優位を築くための投資戦略なんです。プライムサービスの価格は、競争相手のEC企業や小売店を十分に弱らせて、もしくは潰してしまってから、ゆっくりと上げていけばいい。

 習慣というのは怖いものですからね。「いつでもどこでも好きなだけ映像コンテンツを享受できる日常」「ほしいものを送料を気にせずに買え、翌日にはそれが届く日常」が一度、当たり前になってしまったら、私たち顧客は、なかなかそれを手放すことはできません。

──そこまで考えてサービスを提供してるんですね。ちょっと怖くなってきました。

奥野:あまりに用意周到な長期戦略なので、もはや怖いですよね(笑)。「絶対、アマゾンには敵わない」と思わせる圧倒的な差を築くための投資戦略がある。こういうタイプの企業は、一時的な浮き沈みがあったとしても、長期的には成長を続けます。

株価は利益の影、利益はビジネスの影

──そうか。「配当が出ている」=「成長する企業」とはかぎらないんですね。

奥野:要するに配当とは、たとえるなら、タコが自分の足を食べている「タコ足食い」みたいなものなんですよ。銀行預金の利息や債券のクーポンとは、わけが違うんです。配当とは、企業の利益の一部を切り取って配られるもの。そのため、株主が配当を受け取るたびに、その後の株主持分の価値は下がります。

──なるほど。得したいから高配当株を狙う、という人も多いと思いますが、奥野さんからすると、得ではない?

奥野:まったく得ではありません。右のポケットから、左のポケットに資産をうつしかえているだけで、経済学的にはまったく意味のないこと。そんなに現金がほしいのなら、単純に、持っている株の一部を売ればいいだけの話です。それをわざわざ、「3月に確定して5月の下旬に出ます」みたいに、他人にコントロールしてもらう必要はないわけです。

──なんだか、いままで自分が見聞きしていた「投資」の概念がひっくり返った気分です。

奥野:そうですね。日本では、投資への誤解はまだまだ強いと思います。ただ、最低限覚えておいてほしいのは、「配当が出ているからこの企業は安心」と考えるのはとても危険だ、ということ。配当を見て利益があると思うのは、原因と結果が逆になっている早計な考え方なんですよ。

『投資家の思考法』の中で、私は「株価は利益の影、利益はビジネスの影」と表現していますが、「株価」は所詮、企業が将来的に積み上げてくる「利益」を反映して揺れ動く「影」のようなものなんです。

投資家の思考法』P.61より

──「株価は利益の影」ですか。

奥野:「株価」は、たしかに、長期的には企業の「利益」に呼応して変動しますが、短期的には市場参加者の思惑や、需要の影響で揺れ動きます。必ずしも実体の大きさを正しく映すわけではないんです。「高配当」「株主優待」というワードに飛びつくのは、あやふやでつかみどころのない影を追いかけているにすぎないんですよ。