円安だからといって、慌ててドル預金に変えても、意味がない。そう語るのは、長期厳選投資が専門のファンドマネージャーである奥野一成氏だ。主にプロの投資家から約4000億円の資産を預かり、運用実績を上げ続ける奥野氏は、日本におけるバフェット流投資のパイオニア。奥野氏の思考法を余すところなく解説した新刊『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』も、発売当初から話題を呼んでいる。「お金に困らない人生を送るにはどうしたらいいか?」という問いについて、さまざまな企業のケーススタディを通して考える、全ビジネスパーソン必携の書だ。
YouTubeやSNSには安易な情報発信をする「自称投資家」も多く、投資初心者の混乱を招いてしまうこともある。そこで今回は、『投資家の思考法』の発売を記念し、「投資の本質」について深く掘り下げるインタビューを実施することにした。投資の疑問・お金の疑問について、奥野氏にとことん答えていただこう。(取材/川代紗生 撮影/小島真也)
世界第3位の経済大国がどんどん貧しくなる理由
──長期厳選投資のパイオニアで、「日本のバフェット」と呼ばれることも多い奥野さんですが、奥野さんの目には、現在の円安問題はどううつりますか。円安の本質的な問題とは、いったい何なのでしょうか?
奥野一成(以下、奥野):そもそも、「円安・円高」とは何か? という点からおさらいしてみましょうか。たとえば、昨日は1ドルを買うのに100円かかっていたのが、今日は120円になっていたら、私たちはこの現象を「円安になった」と呼びますよね。
──はい。
奥野:これは、円の価値が相対的に下がったことを意味しています。アメリカでコーラが1本1ドルだったとすると、昨日は100円で買えていたものが、今日は120円ないと買えなくなってしまった。これが、円の価値がドルに対して下がった。つまり、「円安になった」ということです。
ならば、いま、日本で起こっている円安の本質的な問題とは何か? それは、「円」という通貨を発行している、日本という国の信用力が、どんどん落ちているということなんです。
お金の価値は基本的に、相対的な信用で成り立っています。為替レートは、為替市場では自由に通貨を売買できるため、中短期的には通貨の需要と供給で大きく変動しますが、長期的には通貨発行国同士の信用力で決まります。
円安が進めば、持っている1000円で買えるモノが少なくなります。とりわけ日本のように、多くのモノを海外からの輸入に頼っている国で本格的な円安になってしまうと、輸入しているモノの値段が高騰してしまい、「輸入インフレ」になってしまうんです。
──「日本は世界第3位の経済大国」とも言われているのに、どうしてここまでの状態になってしまったのでしょうか。
奥野:もちろん要因はいろいろあると思いますが、やっぱり一言でいうなら、「拡大する世界に対し、日本が停滞し続けている」ことじゃないかなと。
たとえば、国民一人あたりの平均賃金の推移を見ると、わかりやすいかもしれません。私が社会人になった1992年の日本の平均賃金と、28年後の2020年の平均賃金を比較してみましょうか。
日本:455万円(1992年)→433.1万円(2020年)0.95倍
アメリカ:2.2万ドル(1992年)→5.3万ドル(2020年)2.43倍
──うわ、本当だ。日本は減っちゃってるんですね。
奥野:そう。この数字はインフレを考慮する前の名目の数字なので購買力の変化を表したものではないことに注意を要しますが、他の国に比べて、日本は相対的にどんどん貧しくなっていっているんです。「現状維持ならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、資本主義の世界において、経済は年々成長していくのが基本。現状維持は落ちていくことと同じなんです。