「円安になるからドル預金しとこう」は意味がない

──投資をする際、「為替リスクが怖い」「まだまだ円安が進むから、外貨建ての預金をした方が得するんじゃないか」みたいな話をよく聞きますが、奥野さんはどう思いますか。

奥野:正直、そんなこと言ってる場合か? とは思いますね(笑)。為替は短期的に大きく動く場合もありますし、その動向を先読みすることは不可能なので、その不安もよくわかりますが、円の価値が上がるのか・下がるのかということに一喜一憂したり、為替の変動を利用して儲けることを「投資」だと思い込んだり……というのは、ちょっと視野が狭すぎるんじゃないかな、と。

──円安で不安になって、流されやすくなってる人も多いんと思うんですけど、そういうときに、いちばんやっちゃいけないことは?

奥野:「円安になるからドル預金しとこう」みたいなのは、全然意味ないですね。目先の損得を気にしているだけで、5年後、10年後、先の未来にまで目が向いてないんですよ。持ってるお金をドルに換えて、どこかでまた円に換えて儲けてやろう、みたいな考え方。そういう発想でものごとを考えていたら、いつまで経ってもギャンブル体質から抜け出せません。

「後進国になるかもしれないから現金預金の150万円を、ドル建てにしとかなきゃ!」って、いやいや、もし万が一後進国になったら、そういうこと考えてる場合じゃないでしょ、っていう。

──たしかに。

奥野:そこまで貧しくなるのなら、目の前の150万を守ることよりもっとやらなくちゃいけないことが、たくさんあるんですよ。もしかしたら移住しなきゃいけないかもしれないし、子どもや孫をもっと教育しなきゃいけないかもしれない。「この150万をちょっとでも多く」じゃなくて、「後進国になっても生きていけるように、何にどう投資するべきか」を考える方がよっぽど大事だと思いますね。

 本当に大事なのは、不確実な未来を予想することではなく、未来は不確実なものなのだと受け容れて、その不確実性に備えることです。

 日本が先進国にとどまることができるか、後進国に再び転落するのかにかかわらず、「自身の購買力を守るには、どうしたらいいか?」という視点を持ちましょう。そのために、「ジブン・ポートフォリオ」を為替面で分散させておくことです。

 国も社会も、あなたの人生に対して責任をとってはくれません。でも同時に、「人生を預けてほしい」と望んでいるわけでもないんです。だから、いつまでも日本という船にしがみつくのはやめて、広い視野を持ち、「世界」という船に乗りましょう。

 国にも社会にも依存することなく、一人一人の国民が自立すること。そのための手助けを、今回の本『投資家の思考法』を通してできたらいいなと思っています。

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奥野一成(おくの・かずしげ)

投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー

【プロ投資家が解説】円安で絶対にやってはいけない「投資のミス」ワースト1

農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。

 

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