「日本は後進国化する」は本当か?

──なんだか怖くなってきました。「日本は後進国化する」といった意見もよく耳にしますが。

奥野:ここまで脅すようなことを言っておいてなんですが、日本がどんどん貧しくなっている現状があるとはいえ、私は、実際には日本が後進国化する可能性は極めて低いと思っています。結局、為替って、単なる交換レートなので。

──単なる交換レート。

奥野:言い換えると、「価値の交換レート」ですね。「その国が世界に向けて出せるもの・作れるもの」の交換レートなんです。

 たとえば、日本はいままで、自動車や電気機器など、他の国にとって価値あるものを作ることができた。それが、工業先進国としての、日本の価値でした。それが、バブル崩壊後、ここ30年、日本経済は停滞期に入り、世界が発展するスピードに追いつけなくなっています。

 戦後の「モノが足りない時代」においては、日本は、便利な工業製品を大量生産することで、世界に価値を提供できていましたが、いまは「モノ余りの時代」です。いかに顧客の課題を解決するか、という、「アイデアで勝負する時代」になってきた。そういった世界経済のニーズに応えられていないのが、いまの日本の現状です。

──なるほど。

奥野:とはいえ、日本にはまだ、「観光資産」という、他国にはない価値があります。訪日外国人客はコロナ前は年3000万人でしたし、コロナ禍が落ち着いて、そのニーズも徐々に戻ってきていますよね。まだ他の国にとって価値を提供できる部分はあるわけです。加えて、ほとんどの国民が義務教育を受けていて、それなりに民度も高い。これも、けっこう大きな資産です。

──識字率もかなり高いですよね。

奥野:ええ。なので、後進国化するところまではいかないんじゃないかなと。

──ああ。よかったです。

奥野:ただ、このままいけば、かなり貧しくなるのは間違いないですね。文字が読めて、数字もなんとなくわかる、それなりに働いてくれる労働力として、低賃金で工場労働させられるんじゃないかな。

──え!

奥野:いま、日本にコールセンターを作る中国企業も増えていますし。より豊かな先進国の企業が日本に工場を立てて、そこで日本人が働く、みたいな感じになるんじゃないかなあ。

──安心したかと思いきや、やっぱり怖い話に。

奥野:だって、「プログラミング」とかにしたって、専門教育を受けてないから、もう明らかに負けてるわけですよ。インド人とかには勝てないですよね。

──そしたら、ものすごく優秀な人じゃないと生き残っていけないんじゃないですか。

奥野:だからこそ、自分の持っている時間や才能、お金などを、きちんと「投資」し、資産形成していきましょう、ということなんです。

 日本経済に対する信用力がジリジリ下がっているのは間違いありませんから、「現状維持は退行である」とはっきり認識すること。中には「現状維持でいいや」という人もいるでしょうが、そういう甘えたスタンスが許されるのは、乗っている船が前に進んでいるあいだだけ。アメリカ人や中国人なら、国全体が前に進んでいるので、「現状維持」の精神でもなんとなく豊かになれるかもしれませんが、私たちは日本人です。「現状維持」しようにも、30年前にその動力を失った「日本」という船で生まれ育ったのが私たちなんですよ。

 だったら、どうすればいいか? 日本という船にしがみつくのではなく、「世界の経済成長」という船に乗ればいいんです。私はその手段の一つとして、「長期厳選投資」を提案しているにすぎません。