英スナク首相Photo:Pool/gettyimages

英国のスナク政権の経済政策は八方ふさがりだ。市場の信認を得るためには緊縮財政を取らざるを得ず、景気後退は必至だ。一方、インフレ抑制のために利上げは続くが、最終到達点の金利は低下しそうだ。結果、ポンド相場は下落基調をたどるだろう。(第一生命経済研究所主席エコノミスト 田中 理)

トラス減税を撤回しても政府債務
引き下げにはさらなる財政赤字削減が必要

 英国では10月25日、政策迷走により金融市場の混乱を招いたリズ・トラス首相が就任からわずか7週間余りで退陣を余儀なくされ、後継首相にリシ・スナク元財務相が就いた。

 財政規律を重視する政権が誕生したことにより、金融市場の不安心理はひとまず後退したが、厳しい経済・政治環境がスナク首相を待ち受ける。

 過去数年の英国経済は、(1)EU(欧州連合)からの離脱後の物流混乱や貿易活動の停滞、(2)新型コロナウイルス感染拡大時の都市封鎖(ロックダウン)と、その間の国民経済を支える巨額の財政出動、(3)ロシアによるウクライナ進攻の余波を受けた資源価格の高騰などを背景に、経済活力の低下、政府債務の膨張、物価高騰などに見舞われてきた。

 そこにEU離脱投票後の世論の分断やボリス・ジョンソン政権時代に相次いだスキャンダルも加わり、2010年以来続く保守党政権に対する不信感が渦巻いていた。

 こうしたなかで誕生したトラス前政権は、生活防衛に向けたエネルギー料金の凍結、大型減税と規制緩和による景気浮揚を目指した。だが、財政規律軽視と受け止められ、金融市場の激しい動揺を招いた。

 財政規律を重視するスナク政権の誕生により、金融市場の不安心理はひとまず後退している。9月23日の大型減税(ミニバジェット)発表後に4%台後半に上昇した10年物国債利回りは、BOE(イングランド銀行)が時限国債購入を終了し、量的引き締めを開始したが、3%台半ばに低下している。

 財政規律を度外視したトラス政権の政策迷走が金融市場の動揺を引き起こしたため、その後を継ぐスナク政権にとっては、財政規律の重視による金融市場からの信頼回復が最重要課題となる。

 ただ、トラス減税の大半を撤回した後も、政府債務を中期的に引き下げるには、追加で300億~400億ポンド規模の財政赤字の削減が必要とされる。

 金融市場の信認を回復するためにスナク政権は緊縮財政路線を取らざるを得ない。しかし、景気後退と物価高の狭間でその行く手は平たんではない。その難路ぶりを次ページからひもといていく。