「従業員の自発性が高まらない」という課題は、さまざまな企業で耳にする悩みのひとつだ。近年では、テレワークが広がり、役割外の自主的な働きを促すことが難しくなっている側面もあるだろう。そこで今回は、株式会社ビジネスリサーチラボの代表で、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)の著者である伊達洋駆さんに、従業員の自発性の問題を紐解く“組織市民行動”の概念とそれを高めるためのアプローチ、そして、その注意点について聞いた。(構成・文/佐藤智 レゾンクリエイト、撮影/菅沢健治)
自発性を紐解く“組織市民行動”の概念とは?
「従業員の自発性を高めたい」という悩みは多くの企業から聞く。例えば、「指示待ち」や仕事に困っている従業員を助けない状態などを目の当たりにすると、「自発性がない」という思いが強まっていく。一方で、従業員たちの中には「『自発的に行動しろ』と言われて動くことが果たして自発性なのか?」と疑問に思う者がいるのも事実。ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さんは、こうした「従業員の自発性」の課題はさまざまな調査結果にも表れていると語る。
伊達 ある民間調査での、「自分自身が期待される以上の仕事をしたいか?」という、いわゆる“自発性を問う質問”に対して、どういった回答が多いと思いますか? ……実は、「思わない」「どちらとも言えない」という回答で約5割を占めています*1 。なんとも煮え切らない回答ですが、これが従業員の自発性に対する考え方の実態だと思います。
*1 アデコ「働く人のエンゲージメント、に関する意識調査」(2017)より
従業員の自発性の問題は人事担当者やマネージャー、経営者にとって大きな関心事だ。しかし、そうした調査結果は「自発的に振る舞おうと考えている従業員はあまり多くない」ということを示している。では、そもそも自発性を持つには何が必要なのか。
伊達 「自発性」は、主に仕事の中で用いられる言葉で、自発性の問題を考える際に参考になるのが、“組織市民行動”という学術的な概念です。組織市民行動とは、簡単に言えば、「自分の役割ではないけれど、会社(組織)の役に立つので積極的に取る行動」のことです。「自分の役割ではない」というところがポイントで、自発性がなければ組織市民行動とは呼びません。
組織市民行動は、会社という1つの社会に対し、それを構成する市民として必要な行動を取ることを示す言葉だ。具体的にはどういった姿勢を指すのだろうか。
伊達 組織市民行動は5つの要素から構成されています。1つ目は、余分な休憩を取らないことや誰も見ていなくても規則に従うといった「誠実性」です。2つ目は、些細なことで文句を言わないなどの「スポーツマンシップ」です。3つ目は、必須ではないが会社の会議に参加したり自社の社外発表に目を通したりするなどの「市民的美徳」です。4つ目は、他者とのトラブルが起きないよう影響を考慮して行動するなどの「礼儀」です。そして、5つ目は、負荷の大きな仕事をしている人をサポートしたり、新人の適応を手伝ったりする「利他主義」です。特に、「利他主義」は組織市民行動としてイメージしやすいでしょう。
伊達洋駆 (だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボを、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『オンライン採用:新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(日本能率協会マネジメントセンター/共著)などがある。