上司が部下の組織市民行動を抑圧することも

 では、従業員が組織市民行動を取るにはどのようなことが必要なのだろう。その把握が、自発性を促す組織づくりにつながると考えられるが……。

伊達 組織市民行動を取るために大切なことは、仕事の相互依存性を高める設計をすることです。例えば、Aさんの仕事が終わらなければBさんの仕事も終わらないといった、それぞれの仕事が相互に重なり合っている状態であることが重要なのです。日本の企業においては、密にコミュニケーションを取りながら一緒に仕事を進めていくような状態が多く、これは相互依存性が高いといえます。

 コロナ禍になって、テレワークで働く人が増えた。就労スタイルの変化の中で、同僚とのコミュニケーションが減少したり、誰かと一緒に仕事を行うよりは一人で黙々と作業をしたりする時間が増えたのではないだろうか。

伊達 テレワークになればなるほど、仕事の自律性が高まるという研究結果も報告されています。自分でスケジュールを組んで、自分で判断する必要があるので、当然といえば当然の結果でしょう。ただし、その分、周囲とのコミュニケーションやフィードバックが減る傾向も指摘されています。そうなれば、組織市民行動は減少しかねません。

 テレワーク下で組織にとってプラスになる自発性を発揮してもらうには、従業員同士でコミュニケーションが発生するような仕事を意識的にアサインしていくことが重要だといえるでしょう。

 従業員のほとんどがテレワークとなり、「入社したての新人が上司と1対1でしかコミュニケーションを取る機会がない」といった事態も耳にすることがある。こうした状態で、自発性を促すのは簡単なことではない。同僚と協働するプロジェクトを任せるなど、これまで以上に接点を増やす働きかけが必要だといえるだろう。

伊達 組織市民行動が促されるもう一つの要因は、仕事の権限が移譲されていることです。ある程度の裁量が与えられ、任されている状態の場合に組織市民行動は増えていきます。

 たしかに細かく管理されたり、口をいちいち出されたりするような環境では、自発性が高まる余地はないだろう。部下を監視するようなマネジメントが前提となっている組織では、役割外の動きをしようという意欲は生まれにくいはずだ。

伊達 自発性は最初から発揮されるものではなく、探索していく中で表出します。試行錯誤は余白がなければできません。例えば、「この1時間で、◯◯と△△をして、できたら報告しなさい」という状態ではいろいろと試す余地は出てきません。さらに、精神的なゆとりも大切で、バーンアウトしている状態の人は組織市民行動どころではありません。組織市民行動を促すには、“ゆとり”が必要なのです。

 マイクロマネジメント以外に、組織市民行動を阻害する要因とはどういったものなのだろう。

伊達 上司の振る舞いによって、組織市民行動が取られにくくなることがあります。具体的には、好き嫌いで賞罰を与える上司の下では、部下の組織市民行動は低下します。ここで厄介なことは、人の好き嫌いの基準は他人にはわからないということです。同じ行動をしているように見えても、Aさんは褒められ、Bさんは注意されるような環境下では、部下は萎縮していきます。賞罰に一貫性がない状況では、部下たちは「自由に役割外の行動を取ることはリスクが高い」と判断するようになります。こうして、組織市民行動は抑圧されていくのです。

「部下の自発性」を課題に挙げる上司は、まず、自身のマネジメントを振り返る必要があるといえそうだ。上司の部下への適切な接し方について、伊達さんはこう語る。

伊達 上司には、自分の大切にすることや判断基準を部下に明確に伝えておくことが求められます。例えば、「自分はいかなる時もクライアント・ファーストだ」という信念があるのならば、それを日々発信していくのです。「クライアントは何て言っているの?」と尋ねたり、「クライアントに喜んでもらえるように企画したのはいいね」と褒めたり、部下がマネジメントの方針を理解しやすいようにしておくことが肝要です。すると、部下は上司の方針を基軸にしながら、自由に行動することができるようになります。「クライアントのメリットにつながるから、これをやっておこう」といったように、組織市民行動をするようになっていくのです。