「従業員のモチベーションが上がらない」状況は、今も昔も企業において大きな悩みのひとつだ。特に、コロナ禍となり、従業員一人ひとりを把握しにくくなった近年では、従業員の“モチベーション”への対応や課題解決が切実になっているといった声も聞く。そこで今回は、株式会社ビジネスリサーチラボの代表で、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)の著者である伊達洋駆さんに、モチベーションの種類と、そのそれぞれの特徴、そして、モチベーションを高めるためのアプローチについて聞いた。(構成・文/佐藤智 レゾンクリエイト、撮影/菅沢健治)
「自律的なモチベーション」と「統制的なモチベーション」
「仕事へのやる気(仕事に対するモチベーション)」は、働いているほとんどの社会人に関わる問題だろう。企業側は、「主体的に仕事に取り組む従業員が少ない」といった悩みを持ち、従業員側は、「仕事にやる気が出ない」「給料がもっと上がれば頑張れるのに……」などの思いを抱えている。ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さんは、こうした「仕事へのやる気」の問題は「モチベーションについての調査研究」から紐解くことができると語る。
伊達 モチベーションについての研究は、かなり古くから行われていて、組織における従業員のモチベーションの高低は、多くの企業が課題として挙げる“あるある”のお悩みといえます。例えば、「いま、あなたが働いている会社で、あなたのやる気は出るか?」を尋ねた調査*1 によれば、「やる気が出る」と回答した人は約4割弱。つまり、6割の人が仕事に対するやる気が出ていません。
*1 ダイヤモンド・オンライン「やる気が出る会社、やる気が出ない会社」に関するアンケート調査(2016)より
長引くコロナ禍でも、従業員のモチベーションの維持を懸念する企業側の声が高まっている。伊達さんが執筆した書籍*2 で紹介されている調査などによれば、コロナ禍で従業員のやる気が下がっていると感じている人事担当者は多く、モチベーション向上の必要性がうかがい知れる。
では、従業員のモチベーションを高めるために求められる、企業側のアプローチにはどのようなものがあるのだろう。
*2 『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)
伊達 “モチベーション向上”の議論に入る前に、まず、モチベーションの種類を整理する必要があります。モチベーションは、大別すると「自律的なモチベーション」と「統制的なモチベーション」の2種類があります。「自律的なモチベーション」は、「内発的なモチベーション」ともいわれており、「仕事そのものが楽しい」「仕事に自分らしさを感じられる」といったことが仕事への意欲につながります。一方で、「統制的なモチベーション」は外側から与えられる“やる気”です。例えば、「給料が上がるから」「地位が上がるから」といったことが仕事への意欲となります。
2つのモチベーションは、「どちらか一方だけがある」というものではありません。それぞれの人が、両方のモチベーションを持っており、「比較的、自律的なモチベーションが高め」「どちらかというと、統制的なモチベーションが強め」といった傾向だったりします。
伊達洋駆 (だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボを、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『オンライン採用:新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(日本能率協会マネジメントセンター/共著)などがある。