ジョブ型雇用と組織市民行動の関係性を考える

 近年、日本でもジョブ型雇用を標榜する企業が増えている。ジョブ型へと進んでいくことは、組織市民行動にどのような影響を与えるのだろう。

伊達 まずは、日本と海外でのジョブ型雇用の違いを整理する必要があります。日本の企業が示している「ジョブ型雇用の推進」は、役割を明確にするという文脈で使われています。「曖昧だった役割を具体化していきましょう」ということが、日本のジョブ型雇用でいわれていることです。

 役割が明確化していけば、業務効率が上がる人もいるでしょう。その中で余裕が生まれ、他者をサポートしようと思うなど、役割外の発想につながっていく人も出てくるかもしれません。一方で、「これは私の仕事としてアサインされていないのでやりません」と役割外の行動を取りにくくなることも考えられます。実は、こうした問題は海外でも指摘されており、自分の役割に閉じてしまうジョブ型雇用の問題の中から、組織市民行動が注目されるようになったという背景もあるのです。

 たしかに、自分の仕事(ジョブ)がはっきりしていればしているほど、他者と協働する余地が少なくなっていく側面はあるだろう。やや本題から逸れるが、海外でのジョブ型雇用は日本のジョブ型雇用とどう違うのだろうか。

伊達 海外で行われてきたジョブ型雇用は、職務内容や給料などが定められたポストが先に決まっている状態で、そこに人を当てはめていくという制度です。従来の日本型の企業のように様々な部署や仕事を会社主導で異動していきながら、給料も高くなるようなスタイルではありません。

 また、ポストをめぐって、会社と従業員の交渉が発生する点も海外のジョブ型雇用の特徴です。ポストに空きが出た場合、日本であれば異動によって人材を補うことが多いかと思います。しかし、海外ではポストごとに労働条件や報酬が異なるため、会社都合で他の従業員をスライドさせるようなことは難しい。このような社内調整をするには煩雑な交渉が必要になるため、異動ではなく外部から人員を調達しようという発想になり、転職市場が活発化しやすいのです。

従業員の「自発性」につながる“組織市民行動”とはいったい何か?

 では、日本と海外では組織市民行動にどのような差があるのだろう。ジョブ型で役割が徹底されている海外の方が組織市民行動は抑制されがちなのだろうか。

伊達 海外の研究者の中には、日本はメンバーシップ型のため、組織市民行動を取りやすいのではないかと評価する方もいました。しかし、アメリカやヨーロッパ、中国などとも比べて、“日本の組織市民行動は低い”という調査結果もあります。

 原因として推測されることは大きく2つあると思います。1つは、役割外の行動が当たり前になりすぎていて、組織市民行動として従業員が認識していないということです。もう1つは、役割外の行動をしているものの、それは職場の無言の圧力によって行われており、自発的な組織市民行動にはなっていないということです。