会社や組織の中で上下する “組織市民行動”

 組織市民行動の5つの要素を実行できているほど、自発性が高いと捉えることができる。なお、これらは持って生まれた資質ではなく、会社や組織の中で上下するものでもあるという。

伊達 経営学では組織を継続させるために、大事なことが3つあるといわれています。1つは当然といえば当然ですが、人が「離職しない」ことです。全員がいなくなれば、組織は解体せざるを得ません。2つ目は、人が「役割を遂行する」こと。与えられた仕事をまっとうしなければ、組織としての機能を果たしていくことはできないでしょう。そして、3つ目に大事なことが、人が「役割として与えられていないけれど、大事なことをやる」ということです。この3つ目が、まさに組織市民行動そのものといえます。

 組織市民行動は組織という形態を維持するためにも重要度が高いことが理解できた。では、実際にどのような効能があるのだろう。

伊達 組織市民行動が高まると、離職意思が低くなり、欠勤率も抑制されるという研究結果が報告されています。また、会社への求心力が強まり、組織市民行動を取る従業員が増えるほど、会社のパフォーマンスが高まることがわかっています。

 一般に、個々人の行動が、会社のパフォーマンスに影響を及ぼすことはあまりありません。普通に考えてみれば、複雑な市場の中にある企業の売上が、従業員の行動だけによってそこまで大きく変わるかというと、そんなことはないですよね。そうしたなか、“個々人の振る舞いである組織市民行動が、会社のなかで増えていくと、会社のパフォーマンスが高まる”ということが検証されています。これは稀なケースといえるでしょう。役割外の行動をしっかり取ること、すなわち、自発性を発揮することが会社にとっていかに大切であるかがわかります。

 さらには、人が辞めれば人員計画が成り立たなくなる。雰囲気が悪くなったり、新たな従業員の採用・育成にコストがかかったりと、会社は不利益を被ることとなる。役割内の仕事を果たすことはもちろんのことながら、役割外の行動(=組織市民行動)も会社の経営上で非常に重要だということがわかる。