「空気」を作るではなく、「仕組み」を作ることが大切

 組織市民行動は、役割外の行動を自ら積極的に取ることだが、その行動が主体的に行われているかを推しはかることは難しい。「同僚の仕事が終わっていない。後から陰口を言われたくないので、『手伝おうか?』と言う」ことや、「上司はこういう行動をしないと怒るから、やっておこうと思う」ことなどもあるだろう。つまり、役割外の行動をしているものの、組織の無言の圧力によって振る舞っているケースも大いにありうるということだ。組織市民行動か、外圧による行動かを判別することは困難なように感じる。

伊達 組織市民行動か社会的圧力による行動かで、表出する振る舞いに差が出ることは少ないでしょう。「同じ行動をしているのだから気にする必要はない」と言う人もいるかもしれません。

 ただ、社会的な圧力を受けた状態で役割外の行動を取ることは本人に悪い影響を及ぼすことを指摘する知見もあります。例えば、仕事へのストレスが高まったり、仕事と家庭のバランスを崩したりといったことも指摘されているのです。

 さらに、組織市民行動には離職率を下げる効果があることをご紹介しましたが、圧力を受けた状態で役割外の行動を続けると、むしろ離職率が上がることもわかっています。

 特に、「空気を読む」といわれる日本の社会では、組織や上司、同僚からの圧力を感じて行動することはよくある光景のようにも感じる。

伊達 圧力がかからないようにするためには、「環境をデザインする」ことが重要です。「空気」を作るではなく、「仕組み」を作るのです。お互いにコミュニケーションを密に取る種類の仕事で、かつ、細かく管理せず、役割を任せ切るようなプロジェクトを作るなどが、その「仕組み」に当たります。こうした環境から生まれた行動は、組織市民行動である可能性が高いと考えられます。

 さらに、じっくり待つことも重要です。組織市民行動は一朝一夕に促されるものではありません。植物を育てるように、環境を整備して、芽が出てくるのを待つことが重要なのです。

*当インタビューは、書籍『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の「Part4・育成と自律性にまつわる処方箋/従業員の自発性を高めたい」をもとに、伊達さんに改めて語っていただいたものです。