その頃、日本はバブル経済崩壊の真っただ中で、政界も「政治とカネ」のスキャンダルで閉塞感が漂う時期であったが、アメリカで、当時46歳のビル・クリントン大統領と44歳のアル・ゴア副大統領が誕生する瞬間を目の当たりにし、「アメリカは良い方向に変わる」「不況からも立ち直る」と実感したものだ。

 あれからちょうど30年。中間選挙では79歳のバイデンと76歳のトランプに世界の目が注がれた。2年後の大統領選挙も2人で争う構図となれば、「高齢者の活躍=好ましい」という見方を超えて、お寒い限りと言うほかない。

アメリカは「分断社会」から
極めて深刻な「断絶社会」へ

 そのアメリカは、「分断社会」どころか、極めて深刻な「断絶社会」へと向かいつつある。

 筆者は選挙直前、ニューヨークに住むアメリカ人ジャーナリストと話をした。

「この数年、共和党支持の家族とは政治の話ができなくなった」「ニューヨークは民主党支持者が多いが、共和党支持者とは対話の機会がなくなった」

 共和党が強いテキサス州出身の彼は、「The Civil War(内戦)」という言葉を用い、「断絶社会」の現状を憂いて見せた。

 今回の中間選挙では、収まらない物価高騰(インフレ)が最大の争点となったが、同時に、前回の大統領選挙で不正があったとされる問題や、共和党と民主党とでは考え方が異なる中絶問題や移民問題、それに銃規制も重要な争点となった。

 このうち、中絶問題は、1973年、連邦最高裁判所が妊娠約24週目までの中絶を合憲とした Roe v. Wade(ロー対ウェイド)判決から半世紀近く、選挙のたびに争点の1つとなってきたものだ。

 日本ではあまりピンとこない争点だが、避妊や中絶を認めないカトリック教徒と福音派プロテスタントは、この間、中絶を合憲とする判決に猛反発して共和党に中絶の規制を働きかけ、民主党は中絶の権利を擁護するという構図が繰り返されてきた。

 共和党支持者は大半が白人で保守派のキリスト教徒。一方の民主党支持者は、都市で暮らす高学歴の白人と中間所得層以下の労働者、ラテン系、アジア系、アフリカ系住民、そして性的少数派などから構成されているところに根深さがある。

 1992年、クリントン政権が誕生したとき、有権者の7割以上を占めていた白人のキリスト教徒人口は、少子化や移民の増加によってどんどん目減りし、近く5割を切るといわれている。