「居場所がない症候群」とどう向き合うか

 あの子は私より仕事ができるけど、人間としては、私の方が価値があるもん。

 そうやって、自分の方が優位だと言い聞かせて、無理やり検査器の針を、自分の方に傾けようとする。

 そんなの、無駄だ。何の役にもたたない。どちらの方が上か下かなんて考えても意味がない。だって人間の価値を測れる機械なんて、星新一のサイエンスフィクションの世界にしか存在しないのだ。幻想だ。本当は、その個人個人が、持っている検査器を捨てられるようになるのが、一番いいんだ。

 でも、それでも自分の方が上なのよ、と張り合いたくなってしまうのは。
 自分の方が価値がある、と自分に言い聞かせないと、やっていられないのは。

 本当は、自分には価値がないんじゃないかって、不安だからだ。

 この世の誰にも認めてもらえないんじゃないか。求めてもらえないんじゃないか。誰も自分を必要としていないんじゃないか。

 私って、ここに生きていても、大丈夫?

 そういうことを考え出すと、際限なく、不安な気持ちが押し寄せてくる。

 本当はそんなこと考えずに、自然体の自分に自信を持てるようになりたいだけなのに。

 ただ、そのままの自分のことを、好きだよって、純粋に言ってくれる誰かに出会いたいだけなのに。愛してほしいだけなのに。自分で自分のことを、好きだよって思いたいだけなのに。

 ああ、愛されるって、自分には愛される価値があると思うことって、どうしてこんなに難しいんだろう。

 そう、キャリアだの、生き様だの、人間としての成熟度だの、なんだかんだ言ってるけど、結局すべては所属できる居場所を見つけるために、あれやこれや試行錯誤して、見苦しくもがいているだけなのだ。

【まだ目が覚めてないんだね】私は「選ばれた人間」と勘違いしてしまう人の心理川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。