全体・流れ・細部を知るための3つの図の重要性

「フレーム&ワークモジュール」の7つのステップ(Step0~6)では、現状把握としての「見える化」(Step0)に続く、Step1の「モジュール化」が肝になる。実際の例を田原さんに尋ねた。

田原 たとえば、私は、海外在住のアートディレクターの暗黙知を形式知化するお手伝いをしています。その方は、「アーティストを育てるノウハウ」を自社のスタッフに教え、チームで共有したいのです。まず、「アーティストを育てるために、彼女が“何を(What)”“なぜそう考え(Why)”“どのように(How)”思考しているか」を考え、「アーティストのUSP(強み)をどう発見するか?」など、彼女の思考プロセスをモジュール化していきました。そして、USP(強み)を伸ばし、伝えるためには、どういう手法で、何に重きを置いて、どうディレクションするか――ディレクターがこれまで、頭の中で考えて実際にやってきたことを、モジュール化(分解)して、可視化していくのです。

 モジュール化の次は「フレーム化」で、これは、「業務の手順を最適化し、標準形(チームで共有するための基本形)をつくること」と定義されている。

田原 「フレーム化」は、どういう順番で行えば、無駄なくスムーズにアーティストを育てていけるかを考えるステップです。付箋に書き出したモジュールには重要ではないものもあるので、重要度や優先順位を整理しながら、ディレクターの思考プロセス、“何をどう考え、判断しているか?”を整理しながら、「モジュール一覧表」を完成させていきます。すると、どのモジュールにアーティストを育てるための暗黙知が潜んでいるかが見えてきます。「モジュール一覧表」は、業種業界によって、さまざまな書式として、アウトプットしていきます。

 そして、「フレーム&ワークモジュール」ならではのメソドロジーが「KWリスト」の作成だ。「KWリスト」は、いわゆるTODOリストや作業マニュアルと同様のものだろうか?

田原 業務の細部を見える化した「KWリスト」は、仕事のノウハウを記載したものです。たとえば、マンションの管理会社に、住民から漏水の連絡があったとします。まず、漏水の状況を聞き、給水管を締め、上階・下階等にも連絡します。こうした手順を示したものが、TODOリストや作業マニュアルです。しかし、「KWリスト」はそれらと異なり、手順に至る、思考プロセスなどの“ナレッジ”がしっかり明記されています。「給水管からの漏水の場合は、汚水とは違って、元栓を締めないと水が出続けるから」といったふうに、「なぜ、そうするのか?」の理由も書かれているのです。漏水対応はマンション管理業務の中でも難易度も緊急性も高く、漏水箇所、水の量、現在は止まっているか等によって、対応は大きく異なります。これまでは、ベテランが個人の経験と勘で対応してきましたが、暗黙知が多すぎて、若手社員が学ぶには時間がかかりすぎるのです。そのため、ベテランの漏水対応の暗黙知を、誰でもできるようKWリスト化しておくのです。