暗黙知を、“鳥の眼・魚の眼・虫の眼”で発見する

 KWリストの実例を見ると、その精緻さに驚くが、“一回作って終わり”ではなく、必要に応じて書き加え、手順に至る“ナレッジ(知識・情報・ノウハウ)”を積み重ねていくという。TODOリストや作業マニュアルがあっても、更新されず、形骸化している場合が多い。しかし、メンバーが日々、新たに、現場で気づく新たな暗黙知を現在進行形で入れ込み、“最新のノウハウリスト”を共有していくことが肝要なのだ。

 さらに、田原さんは、モジュール一覧表・フロー図・KWリストという3つの図には“3つの眼で向き合うこと”が大切だと明言する。

田原 モジュール一覧表で「全体像」を、フロー図で「業務の流れ」を、KWリストで「手順の細部」を確認することで、教える側も学ぶ側も、その3つの図に宿る暗黙知を、“鳥の眼・魚の眼・虫の眼”で発見することができます。モジュール一覧表は全体を俯瞰する鳥の眼で、フロー図は業務の流れを見る魚の眼で、KWリストは業務の細部を見る虫の眼で見ていきます。

“暗黙知の形式知化”が、人材・組織・企業をぐんぐん育てて強くする

 では、実際に「フレーム&ワークモジュール」メソドロジーで暗黙知を形式知化した組織にはどのような変化があるのだろう。

田原 ある企業では、正社員・契約社員・パート社員・時短社員といった方々が混在していました。「それは正社員の業務でしょう?」「時短だからできません」というふうに、各自勝手な解釈をしており、業務の境界線が曖昧でした。しかし、すべての業務を見える化したことで、誰が何をどこまで行うか、責任の所在がはっきりし、一人ひとりのモチベーションが上がりました。驚いたことに、他の人の業務が見える化されたことで、互いに補い合って仕事をするようになり、生産性も向上し、チームワークもよくなってきたのです。

 また、属人的に仕事が行われていた介護施設では、新人が育たず、仕事が一部の人に偏っており、施設内のあちこちで、「なんで、私ばかりがこんなことしなきゃいけないの!」といった声が飛び交うような状況でしたが、各スタッフの技量を見える化し、KWリストをアップデートしていくと、自然に協力し合う素晴らしいチームワークが生まれ、介護情報誌の模範事例として掲載されるほどになりました。

 KWリストをもとに、マネジャーは、「いつ、何を、どうすればよいか」という具体的なアドバイスを部下にできるようになり、適正で効果的なマネジメントを行えます。部下指導のスキルも上がり、公平な人事評価もできて、組織全体の業務の質が向上していきます。日々の現場の状況に合わせ、最適化されたKWリストは、“組織のルールブック”として、成功事例・失敗事例を随時アップデートしていきます。こうして、「業務を改善し続ける」しくみができあがり、ルーティンとなっていきます。