自動車社会のアメリカでは、ガソリン代の高騰は市民の生活を直撃します。このままでは秋の中間選挙で大敗すると考えたバイデン大統領が強い圧力をかけ、メディアの前で「インフレ退治はFRB議長の責任である」とパウエル議長をさらし者にしたような対談でした。

 結果、FRBは教科書通りのインフレ対策に踏み切ります。金利を急激に上げるのです。金利が上がると景気過熱に冷水が浴びせられます。そうすると景気後退は避けられないのですが、結果として消費は冷え込み、人件費は下がり、やがて物価は沈静化します。

 FRBは毎月のように金利を0.75%ずつ上げていき、アメリカの市場金利の目安にあたる10年物国債の金利は4.3%台まで上昇しました。そこで起きたのが円安です。

 日本の長期物の国債金利は、日銀の異次元緩和策の継続で0.25%の水準にずっと据え置かれています。円を売ってドルに換える、言い換えると機関投資家が日本の国債を売ってアメリカの国債に買い替えたほうがずっともうかる状況が人為的にできてしまったので、円安が起きたのです。

 この半年ほど、円安が問題になっても日銀の黒田総裁は頑として金利政策を変えなかった。一方で、パウエル議長も利上げを継続する姿勢を変えませんでした。

 その後どうなったかというと、実はこの夏から秋にかけ原油価格と小麦価格が金利とは関係ない別の要因でウクライナ侵攻前の水準に戻ります。日本では円安で電気代も上がり続けていたのですが、実はアメリカ人にとってはこのふたつの物価要因が下げに転じたのです。結果としてガソリン価格が早い段階で下がり始め、国民の不満は解消され始めます。

 そしてアメリカの消費者物価指数はあいかわらず高い水準ですが、実は利上げでインフレが止まり始めていることが統計からは読めるようになってきました。インフレ率のうちエネルギー価格と食料価格を除いたコア指数という数字がインフレ退治には重要な指標なのですが、このコア指数が直近で明らかに下がってきているのです。

 しかも、コア指数全体を押し上げているのは住居費のように短時間には下がらないものが中心なので、先行要素にあたる物価は実は下がり始めているのです。そもそもインフレ退治には長い時間がかかるもので、金利を上げたらすぐにインフレが収まるというものでもない。ようやく成果が目に見えるようになってきたのが直近の状況でした。

 それがわかっていても選挙まではパウエル議長はファイティングポーズを取り続けるしかない。これが、私が「円安は人災だ」という理由です。今回の中間選挙でバイデン氏が勝ち、トランプ氏の勢いにかげりが出れば、もうパウエル議長が必要以上につっぱり続ける必要がなくなったわけです。

 ここが、私が「11月に円ドルレートが130円台になるかもしれない」と予測した最大のポイントでした。11月11日に円安が止まったのはこの日に発表されたアメリカの消費者物価指数が市場予測よりも低かったからですが、同時に「これでパウエル議長の利上げペースはこれ以上加速しなくなるだろう」と市場関係者が考えたからでもあります。

「風が吹くとおけ屋がもうかる」といいますが、まさに今回起きていることはその通りで、トランプ前大統領の勢いが弱まると円安が収まり、私たちの生活が楽になるかもしれない。今、そういうことが起きているのです。そう考えると経済って面白いですね。