真相解明は緒に就いたばかり

 例えば、「痛みを伴ったものの、しがらみは断ち切った――はずだった。だが、この『処理』の過程で会社と大株主である創業家側との亀裂は広がり、その解消に向けて大東さんらは、関係を断ったはずの男性経営者に頼ることになったという。12年11月、創業家の親族が東証に王将と男性との関係を伝え、王将は上場を断念。王将は不適切な取引について社内調査を始めた」と22年11月4日付の毎日新聞が報じている。この経緯からは「大東氏と創業家との対立」がうかがえる。

 また、「大東前社長との交渉はスムーズに行われ、会社の債務を解決しようと理解し合ったうえで対応し、トラブルもなかった」というNHKのインタビュー(22年11月2日)におけるA氏の発言、「(王将は13年7月東証1部に大証2部からくら替え上場)その結果、私が負った債務は約40億円であると、双方で確認し合い、それは文書にも残されているのです。それなのに、なぜ、今になって、約260億円というケタ違いの金額が私に流出したことになっているのか」(デイリー新潮、16年9月28日)というA氏の証言がある。

 あるいは、回収不能となった170億円は、実は創業家関係役員の株投資や不動産取引にキックバックのかたちで流用されていたのではないかという疑惑(A氏から別のB氏に約53億円が振り込まれた、B氏は道仁会との関係があるなどが指摘されている)も一部取り沙汰されていることなどに焦点を当てると、一般的に捉えられている事件の構図とは異なる構図が浮かび上がる。

 こうした当事者による反証の検証はいまだ十分ではないが、もし後者の構図が事実の一部を示しているとすれば、この事件の本質は、企業に対する反社会的勢力からの攻撃といった視点にとどまらず、企業と反社会的勢力の深い関係という「闇」が顔をのぞかせた大変衝撃的なものになる。

「事実は小説よりも奇なり」、「事実は一つだが、真実は人の数だけある」とは危機管理を行ううえで重要な心構えだ。相反する二つの構図において、両者は自らの立場から見える(見せたい)「真実」を「事実」であるが如く語っている(示している)にすぎず、事実は意外な姿を見せる場合もあると念頭に置くべきだ。今後、事実にたどりつく道のりを私たちは見守る。真相解明は緒に就いたばかりだ。