企業は反社リスク対策の見直しを徹底せよ

 2007年に犯罪対策閣僚会議申し合わせとして出された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を踏まえ、組織として反社リスク対策に取り組むことが今や常識となった。だが、エス・ピー・ネットワークが21年に実施した「反社リスク対策に関する実態調査」から見えてきたのは、「反社リスク対策の実効性は、全体的に反社会的勢力の実態に対峙(たいじ)できるレベルにない」という現実だ。

 例えば、反社チェックについては、反社会的勢力がどこに潜んでいるかを考慮することなく、表面的なチェックにとどまり、存在の不透明化や手口の巧妙化を進める反社会的勢力の実態とのミスマッチが顕著だ。

 何のためのチェックなのかさえ理解できていない実効性の低い反社チェックや役職者の意識の低さは、むしろ反社会的勢力の活動を助長することになる。あらためて、経営トップはじめすべての役職者の意識面からの早急な改善、社内体制の整備(内部統制システムの構築)が急務だ。

 そして、内部統制システムの限界は「人」だ。反社リスクは「外部からの攻撃リスク」のひとつだが、役職者は、「防波堤」にも「接点」にもなりうる。「境界防御」レベルが低く、「ゼロトラスト」の観点が組織として欠如していれば、反社会的勢力は容易に「人」を介して企業内に侵入してくるとの危機感は常に持ってほしいところだ。

 今回の事件で、大東氏は「殺されるかもしれない」と事件前に周囲に話していたという。そのような状況だったにもかかわらず、上場企業の社長を守ることができなかったリスク認識・リスク管理の甘さが招いた最悪の結果について、全ての企業が他山の石とすべきだろう。

 なお、反社リスクを理由として既存取引先との関係解消を図ろうとする場合、反社会的勢力からの攻撃を想定し備える必要があるが、具体的に役職員をどうやって守るのか、検討したことはあるだろうか? 弁護士に対応を一任する、警察に保護対策を要請するにせよ、自助努力としての警備・警戒態勢の強化は企業の責務だ。

 十分な安全確保なくして担当者は戦えないし、戦わせるべきでもない。また、「会社が守ってくれる」との意識が担当者の戦うモチベーションを支える。役職員の安全は、自社が責任を持って確保すべきものだと認識する必要がある。

 そのうえで、チェックリスト1のような警備上の検討ポイントを参考にしてほしい。また、役員や対応担当者の安全の確保の面からは、チェックリスト2のような警戒対応も視野に入れる必要がある。

チェックリスト1~警備上の検討ポイント~
● 対象事業所等の施設警備
● 役員や対応担当者の身辺警護
● 役員や対応担当者の自宅周辺の警備
● 役員や対応担当者の家族の警備
● 事業所内の盗聴調査

チェックリスト2~役員や対応担当者の安全の確保~
● 通退勤ルートの変更(時間やルートを固定しない)
● 安全な宿泊場所の確保
● 特に対応担当者のメンタル面でのサポート
● 対応担当者の複数確保と交替制
● 位置発信機器等の携帯、定時連絡の履行
● 事業所内の物理的安全管理措置(施錠、PCや書類等の管理など)
● 事業所内外での通信セキュリティ面の配慮(PCや携帯電話等の盗難防止など)
● (私的なものも含め)SNS等の利用の中止
● 書面等の事業所外への持ち出し禁止

 さらに、危機管理会社のような専門家による社内対応・対外的対応に関する全般の支援を得ることも、実効性を高めるうえでは重要な選択肢と言えよう。対応担当者の教育や各種対応策の実行に関するアドバイスなど、専門家ならではの視点からのサポートは有事の際に心強い。