「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。
本記事では、なんと800ページ超のボリュームを誇る同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。
なんとか高い人件費を維持する
規制に守られた「贅肉だらけの組織」
前回に引き続き、縦軸に35歳時点での手取り年収を、横軸に平均勤続年数をとって、マッピングした次の図をもとに、職場選びの考え方を見ていこう。
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前回触れた「③古い戦後日本企業」以上に安定したサラリーマン人生を送れるのが、右上④の「勤続年数が長く、平均賃金も高い」企業群である。少なくとも20年前から顔ぶれは変わっておらず、総合商社、放送局、パイロット、大手出版、電通博報堂、朝日読売日経、大手生保損保証券、大手製薬、メガバンク、ソニー。大半が規制業種となる。
新聞・放送・広告は、ネットとの競争は不可避で、メディアとしてのシェアは奪われたが、もともと贅肉だらけの組織で、一等地に不動産を保有している会社も多いため、売上が下がっても、コストのほうも(退職者不補充などの自然減で)落として、縮小均衡させることで、高い人件費を維持している。大崩れすることなく、35歳なら額面1000万円はギリギリでキープ。今後も資産と人員を整理していけば、伸びしろはないものの、残る人の賃金の暴落まではなさそうだ。
三菱商事のキャリアパスと報酬水準
経済のグローバル化に対応する力を持っている総合商社は、すでに報酬水準が高いうえに、将来性もある。規制に守られている度合いは事業部によって異なるが、ロシアにおける天然ガス開発の「サハリン」プロジェクトのように、政府(経産省)と一体化して出資し権益を保有する、ズブズブの国策事業も手掛けている。
各社ともに巨大な関連会社のネットワークと巨額の資金を持つにもかかわらず、ファミマ(伊藤忠)とローソン(三菱商事)がセブンイレブンにまったく歯が立たないように、ビジネスマンとしての能力が高いわけでは全然ないが、それでも名刺の力で働ける安心感は大きい。外資のように、成果が厳しく問われ、「負け組」人材がクビになる世界では、まったくない。
5大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事)の待遇は大差なく、いずれも昭和時代の年功序列的な運用を続けている。たとえば三菱商事は、連結純利益に連動して自動的に決まるボーナスがあり、管理職クラスのいちばん下(35歳前後に同期がほぼ一律で昇格)で、その基準額は215万円。2022年3月期は資源バブルで過去最高の業績に上振れし、これが559万円となった。
それ以外は、±数%くらいしか変動しない「成績加算金」が463万円、基本給年額が977万円。合計で、額面1999万円が2022年の年収である。とはいえ手取りは1282万円で、月100万円をやっと超えるくらいだから、納税による国への貢献度は高い。
ロシアの侵攻や資源バブルがない平時では、基準が額面1655万円(35歳「M2」)。年功序列的に40代のうちに「M1」ランクまでは昇格するのが慣例となっており、基準が年収1802万円。どんなに仕事ができなくても、年を重ねれば、ここまではもらえる。今年なら、資源バブルで2195万円である。
「いわゆる“WINDOWS 2000”、たしかにいますよ。そこそこ、います。実際の権限は与えられていませんが、それなりのポストには就いていて、いろんな案件に口を出してきて、存在感を示そうとしてきます」(社員)。この窓際族が、社内では「いちばんの勝ち組」と言われているという。窓際40代社員で年収2200万円だから、納得である。