「選手は移籍できるけど、サポーターは移籍できない」

 この関係性が当てはまるのは、企業と社員だけではありません。企業と社員以外にも、学校と生徒や、団体と会員など、多くの関係には始まりだけでなく終わりがあります。その中の多くは、「辞め方」と「辞められ方」を変える「辞め方改革」によって、その後も新しい関係性を築けるのです。

 ひとつの例として、サッカーJリーグのジェフユナイテッド市原・千葉と女子サッカーWEリーグのジェフユナイテッド市原・千葉レディースがあります。ジェフは、昨年(2021年)、OBOG会「JEF RE-UNITED」を立ち上げました。これまでも、クラブが個人的にOBOGとつながっていたり、OBOGの個人同士がつながっていたりすることはありましたが、個人的なネットワークの域を出てはいませんでした。そこで、ジェフ史上最多出場数を誇るバンディエラ(長くひとつのクラブに所属している象徴的な選手)であり、現在はジェフのCUO(クラブユナイテッドオフィサー)として活躍する佐藤勇人氏らが中心となって、過去にジェフに所属して引退したアルムナイ(元選手)が、サポーター、パートナー、ホームタウン、クラブ、アカデミー、そして、現役選手と再び(RE)結束(UNITE)することを目的として、選手OBOG会「JEF RE-UNITED」を発足しました。

「選手は移籍できるけど、サポーターは移籍できない」――サッカーのサポーターの間ではこんなことが言われます。ずっと応援しているクラブの選手が他のクラブに移籍してしまう時などに使われる言葉です。

 Jリーグの規約には「Jクラブはそれぞれのホームタウンにおいて、地域社会と一体となったクラブづくり(社会貢献活動を含む)を行い、サッカーをはじめとするスポーツの普及および振興に努めなければならない」という文言があります。Jリーグでは、日々の生活の一部と言えるくらいにクラブとホームタウンとのつながりが強いからこそ、このような言葉が生まれたのかもしれません。

 一方で、選手に目を向けると、世界的にもサッカー界では選手の移籍は頻繁に発生しますし、日本ではプロ野球などと比べて移籍が多く発生するスポーツであると言えるでしょう。自分に合った戦術であったり、出場機会が増えるクラブで活躍したい、高く評価されるクラブに行きたい、よりレベルの高いリーグに挑戦したい……など、理由はさまざまでしょうが、プロ選手として移籍を選ぶことも当然でしょう。そしてもちろん、デビューしたクラブに引退まで所属することを選択する選手もたくさんいます。このように、人によってクラブとの付き合い方が異なるのは、キャリアが多様化する社会における昨今の企業と個人の関係にとても似ているのではないでしょうか。