組織と「人」の関係性の価値を高めていくことで…
会社員が企業を退職する時と同様に、クラブやサポーターの「辞められ方」や選手の「辞め方」も多種多様です。移籍という形でクラブを去っても愛される選手もいれば、常にブーイングを受けたり、批判され続ける選手もいますし、クラブと選手がメディアなどを通じてお互いを批判し合っているケースなども見られます。もちろん、その理由は「辞め方」だけに限ったものではありませんが、「辞め方」がひとつの大きな要因であることは否定できないでしょう。
サッカー選手の選手生命はそれほど長くはなく、引退後はセカンドキャリア、そして、サードキャリアが待っています。引退後にサッカー関連の仕事をする人は多いですが、それ以外の仕事をする人もたくさんいます。クラブスタッフ、コーチや監督としてクラブに残ったり、戻ったりするケースも多くありますが、全員に当てはまるものではありません。常勤の契約でクラブに所属する以外にも、アカデミーで若手の育成をスポットで手伝ってもらったり、サポーターや地域とのつながりを作るイベントなどに参加してもらったり、または、サッカー以外の仕事で得た視点をクラブ運営に持ち込んでもらったりと、引退したアルムナイとクラブの関係性には多くの可能性があります。当然のことながら、どちらか一方がメリットを得るのではなく、クラブにとっても元選手であるアルムナイにとってもメリットがあるWin-Winの関係を築くことが重要になります。仕事内容や契約形態など、異なる点が多いと見られる一般企業とプロサッカークラブですが、「辞め方」や「辞められ方」、そして、「辞め方改革」が退職や退団後の関係に影響を与える点など、共通項もとても多いのです。
活動を始めたばかりの「JEF RE-UNITED」ですが、ファンイベントや社会貢献活動など、クラブと連携してのさまざまな活動を行っています。今年(2022年)10月には、ひとり親家庭を支援する一般社団法人と共同企画したイベントを開催し、10組20名のひとり親家庭の親子をシーズンホーム最終戦に招待しました。イベントには、ジェフでキャプテンを務めた近藤直也氏と、2015年FIFA女子ワールドカップに出場した山根恵里奈氏の2名が参加され、招待された親子は近藤氏と山根氏によるトークセッションに参加した後に、一緒に試合を観戦して交流を深めました。現役選手が子どもたちと一緒に試合を観戦することはできませんし、コロナ禍による制約でこのようなイベントに選手が参加すること自体が難しくなっていることもあり、アルムナイの存在が重要視されています。
事務局を務めるジェフの佐藤勇人CUOはこう語ります。
「人的資本という言葉もアルムナイという言葉も聞いたことはなかったです。ただ、私たち元選手にしかできないことがあると思ったし、辞めたら疎遠になってしまっている人がいるのはシンプルにもったいないと思いました。Jリーグのチームにとって、サポーターやファン、ホームタウンは特別です。そして、ジェフに一度でも関わった元選手たちも特別な存在です。そんな両者がつながれるようにするのは、特別なことではなく当たり前のことです。『JEF RE-UNITED』としての活動を通じて、アルムナイとホームタウンやサポーターが再びつながり、懐かしい想いや新たな形での結束を生むことを目指していきます。そうすることが結果的にクラブの価値を高め、ホームタウンやサポーター、パートナーやスタッフ、そして、選手やアルムナイなど、クラブに関わる全ての人に対する提供価値を上げることにつながると思うのです」
多くの組織にとって、「人」が最も大切な資本のひとつであることに疑いの余地はありません。組織と「人」の関係性の価値を高められれば、その先には、「辞め方改革」、そして、アルムナイとの良好なつながりが生まれ、そのつながりが関係性の価値をさらに高めるという好循環が生まれるのです。