「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。本書の原著である『フロイトの椅子』は韓国の人気女性アイドルグループ・少女時代のソヒョン氏も愛読しているベストセラー。ソヒョン氏は「難しすぎないので、いつもそばに置いて読みながら心をコントロールしています」と推薦の言葉を寄せている。あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は日本版の刊行を記念して、本書から特別に一部抜粋・再構成して紹介する。
主治医に執着するクライエント
「私、絶対に先生と結婚します」
彼女は面談室で私の手をぎゅっと握り、目を見つめながら真剣にいいました。その後、彼女のお姉さんから電話がかかってきました。
「妹が先生と結婚するといっていることをご存じですか? 心配になって……」
このクライエントは大変な困難を経験した女性でした。
両親の暴力や恋人の裏切りによって、夢も幸せも奪われ、精神科病棟に入院していました。
彼女にとっては、主治医である私が、自分を人生のぬかるみから救い出して、少女時代の夢を取り戻してくれる守護天使のように見えたのでしょう。そう信じたかったのだと思います。
彼女も、私と結婚するという考えが現実的にはありえないことだと意識の世界ではわかっていたはずです。
しかし、無意識からのぼってくる救われたいという希望、愛されたいという欲求、依存したい心が強力に現実をゆがめたのです。
これを精神分析用語では「転移」、その中でも「陽性転移」といいます。
これは陽性転移の中でも極端なケースです。
「大きくなったらパパと結婚するの」という子どものような幻想が、あまりにもつらい状況のせいで治療者へと向けられたのです。
このようなとき、治療者はあくまでも中立的な態度を保たなければなりません。
転移が起こっている現状について、患者がその意味を理解できるようにサポートすることで、治療者に対する執着を解き、自分の人生を生きられるように導きます。
(本稿は、チョン・ドオン著 藤田麗子訳『こころの葛藤はすべて自分の味方だ。 「本当の自分」を見つけて癒すフロイトの教え』から一部抜粋・再構成したものです)