中間管理職に課せられた“責任の重さ”が問題
さまざまな調査結果*1 からも、30代・40代の男性ビジネスパーソンのメンタルダウンが多いことが分かる。その層に含まれているのは、就職氷河期世代・ミレニアル世代*2 の中間管理職――組織の最前線にいるはずの中堅社員が心を病んでいるのだ。
*1 公益財団法人日本生産性本部「第10回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査」(2021年)、一般社団法人日本産業カウンセラー協会「電話相談『働く人の悩みホットライン』の利用状況等統計」(2019年)など。
*2 HRオンライン「ミレニアル世代の働きやすさのために、いま、企業は何をすればよいのか」 参照
佐々木 中間管理職のメンタルダウンは明らかに増えています。企業における就労において、心身の調子を崩しやすい時期は2回あって、ひとつは新卒入社してからの3年間――よく言われる「3年間で離職30%」にリンクするものです。そして、もうひとつが管理職になったとき。中間管理職のメンタルダウンの理由はさまざまあるのですが、そもそも、マネジメント適性のない人が管理職になったケースも多く、「役職を外したら治った」という話もよく聞きます。
中間管理職のメンタルダウンが起こる原因について、まず、佐々木さんは“管理職に課せられた責任の重さ”を挙げる。
佐々木 もちろん、組織によって程度の違いはありますが、一般的に管理職は責任が重く、権限や待遇がそれに見合っていないことが多いですね。「やらなければならないこと」と「してはいけないこと」がいっぱいあって、部下へのハラスメントに細心の注意を払う時代です。管理職ではない社員が職場に求める「心理的安全性」を、管理職自身も確保する必要があります。「責任と仕事の量だけが増えて、守ってくれるものがない」と嘆く中間管理職*3 が少なくありません。特に30代・40代の課長クラスは、上司である部長クラスのフォローが足りずにメンタルダウンしていくケースが多いです。
*3 パーソル総合研究所/中原淳「長時間労働に関する実態調査(2017・2018年)」では、「働き方改革」における残業時間の削減(長時間労働の是正)が管理職の業務を増やし、残業が課長職に集中しているということが明らかになっている。
かつては、入社7年目に主任になり、15年目に課長になって、と……組織の中で昇進していくことがビジネスパーソンの当たり前の働き方であり、仕事のモチベーションになり得ましたが、最近は必ずしもそうではありません。エスカレーター式に役職が与えられていく場合でも、管理職を希望しない人が増えています。それでも、人手不足といった理由から管理職にならざるを得ない人もいて、結果的にメンタルダウンしてしまう。
また、管理職への昇進を希望していた人でも、就労状況の変化によって、心身の調子を崩していくケースも多々あります。たとえば、競合店の出店といった外的要因で売り上げが一気に下がってしまった店舗のマネージャーなど……部下のマネジメントや人間関係が原因ではなく、“大きな環境変化”がメンタルに影響を及ぼしていくのです。
職場でのコミュニケーション方法を変えた新型コロナウイルス感染症の拡大も、ビジネスパーソンの心身の不調につながっているのではないか?
佐々木 コロナ禍では、やはり、「リモートワーク」の有無がカギになっています。他者との直接的な対話の機会が減ったことは、どんな人のメンタルにも何らかの変化があったはずです。特に、出社することでアイデンティティを保つタイプの管理職には大きな影響がありました。自分の見える場所に部下を置き、会議の上座席でイニシアチブをとる――そうした役割をオフィスの中で果たしていたのですが、リモートワークでは難しい。責任と数字管理だけに追われる感覚が強まって、メンタル不調を訴える方が増えています。