「シミュレーション1on1」で管理職の耐性を上げる
佐々木さんは、企業経営者や人事担当者とのやりとりに加え、“個人セッション”のスタイルで、メンタルダウン当事者との面談を行っている。自らの経験値があるからこそ、心の病を抱えるビジネスパーソンにしっかりと寄り添うことができ、適切な距離感での対応が可能なのだろう。
佐々木 実際にお会いしてみないと分かりませんが、働ける状態にない方には医療をお勧めしています。私がお話を進めさせていただく方は、病状が回復しつつあって、職場への復帰を予定しているケースが多いです。うつになりました、休職しました、そろそろ復帰したいけど、管理職として復職するのは不安だし、組織にとってそれでよいのか?――そんな悩みを抱えていらっしゃる方です。ある方は、仕事への“何となくの不安感”にずっと囚われていて、その“何となくの不安感”の正体は、自分のキャリア形成と仕事のやりがいとのギャップでした。大企業の40代管理職で、うつ病を発症し、現在の自分を何とかしたいと考えていらっしゃいました。
「メンタルダウンした部下をマネジメントするなかで、自分の心身も不調に陥っていく中間管理職の方がいる」と、佐々木さんは続けて解説する。そうした管理職との面談(個人セッション)はどのように行っているのか。
佐々木 ある中間管理職の方は、部下に電話してもつながらない、メールしても返事がないということで、上司としての責任感やストレスから自分自身も疲弊し、元気を失くしてしまいました。そこで、私は「シミュレーション1on1」を行いました。メンタルダウンしている部下役を私が担い、LINEメッセージに返事をしない状況で電話がつながった場面を想定しました。部下役の私が、「メッセージを読んでみたけど、言葉を返す気になれない」「何となく気が向かない」といったふうに、LINEで返事をしない理由をしぶしぶ答えます――そうしたシミュレーションの後で、「○○という聞き方のほうが部下の方は答えやすい」「この場合は、□□がNGワード」などと、管理職自身のメンタル状態を鑑みながらアドバイスを送りました。
メンタルダウンした部下の存在がきっかけになってメンタルダウンする中間管理職――そうしたビジネスパーソンは決して少なくないという。
佐々木 部下が心身の調子を崩して休職・離職することで過重労働になったり、組織のマネジメントを上司から咎められたりすることが中間管理職のメンタルダウンの原因になります。人手が足りなくなったことに責任を感じ、人事担当者などとの対応にストレスを感じるのです。また、メンタルダウンした部下が何を考えているのか分からないことがいちばん大きなストレスになっています。