日本では無名に近かった「アドラー心理学」を分かりやすく解説し、いまや世界累計部数1000万部を突破する大ベスト&ロングセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』。生きていく上で誰もが直面する対人関係の悩みに対し、「アドラー心理学」の教えが明確な答えを与え、共感を得ていることが世界中に支持を広げている最大の理由でしょう。
この連載では、『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、そうしたアドラー心理学の教えに基づいて、皆さんから寄せられたさまざまな悩みにお答えします。
今回は、上から目線で接してくる友人との関係に悩む男性からのご相談。岸見氏と古賀氏がアドラー心理学流でズバリ回答します。(こちらは2014年8月4日付け記事を改題・再構成したものです)

「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」の著者・岸見一郎氏と古賀史健氏がアドラー心理学の教えに基づいて、あらゆる人生相談に答えます。イラスト:羽賀翔一

今回のご相談

「自慢話が多く、攻撃的な友だち。聞き流そうと努力するものの、やはり傷つきます。」

 やたらと自慢話が多い上から目線の男友だち。笑っちゃうくらい高学歴アピールの話を挟んでくるので、普段は「そうかー、そうかー」と聞き流しています。しかし「お前、やばくね?」と私のことを上から目線で攻撃してくることがあり、聞き流そう……と思ってもうまくいかず、傷ついて落ち込んでしまいます。どうしたら傷つかないようになれるでしょうか?(27歳の男性より)

「アドラー心理学流」回答

●わざわざ言葉にして自慢する人の、「目的」を考えてみましょう。

 傷つかないようになるためには、その友だちの「目的」を考えるといいでしょう。なぜその友だちは、自慢話ばかりするのか。やたら他人に対して上から目線なのか。

 答えはきわめてシンプルです。

 じつは彼は、強烈な「劣等感」を抱いているのです。アドラー心理学では、この種の劣等感のことを「優越コンプレックス」と呼びます。

 つまり、「ありのままの自分」を受け入れられず、他人より優れていることを誇示するという安直な手段によってしか自分の存在を認められない……。

 彼はまだ「普通であることの勇気」を持てていないのです。

 よく覚えておいてください。わざわざ言葉にして自慢するような人は、ほんとうのところは自分に自信がないのです。自らが優れていることを誇示しなければ、周囲の誰一人として「こんな自分」を認めてくれないと、恐れているのです。

 このように相手の振る舞いの「目的」さえわかってしまえば、それに対して怒りが湧いたり傷ついたりするようなことも、減っていくでしょう。

 もうひと言いえば、あなたはなぜ、そんな友だちとつき合い続けているのですか?

 つき合いたくない人と無理につき合う必要などありません。友だちは一生友だちである必要などないのです。

 対人関係のカードは相手ではなく、常にあなたが握っています。関係を断ち切りたくなったら、断ち切るのはあなたの自由なのです。

今回のアドラー流ポイント:優越コンプレックス

 アドラー心理学は「劣等感」を忌避すべきものだとは捉えていません。成長や努力の促進剤ともなる、あたりまえの心理状況だと考えます。ただし同時に、人はずっと劣等感を抱き続けることには耐えられないと考え、それをどう克服しようとするかを重視します。健全な努力をもって克服を目指せればいいのですが、多くの人は何の努力もせずに、自らの劣等感を「言い訳」として使いはじめます。それが、アドラー心理学が「劣等コンプレックス」と呼ぶ心理状態です。

 たとえば、「私は学歴が低いから成功できない」などと考える。もしくは「(自分は学歴が低いが)もしも学歴さえ高ければ、自分は容易に成功できるのだ!」と、自らの有能さを暗示する方法を取る人間もいます。さらには、それが「優越コンプレックス」と呼ばれる心理状態に発展することもあります。あたかも自分が優れているかのように振る舞い、偽りの優越感に浸るのです。過度の学歴自慢やブランド信仰といった「権威付け」はその身近な例です。

 劣等感は健全な努力をもってしか克服できません。いくら「劣等コンプレックス」や「優越コンプレックス」を抱いて言い訳をしたところで、状況は何ひとつ変わらないのです。