「自己肯定感」という言葉が取り沙汰されるようになって久しい。しかし、「他人の目なんか気にせず、ありのままの自分を受け入れよう」「承認欲求を今すぐに捨てよう」──そんなポジティブな言葉を目にするたび、息苦しくなってしまう人も多いのではないだろうか。
自分を好きになれない、どこにいても疎外感があり、誰にも本音を打ち明けられない……そんな不安やを解消するために必要なのは、「今すぐに使えるハウツーやライフハック」ではなく、気が済むまで自分と向き合う時間だ。そう語るのは、エッセイ『私の居場所が見つからない。』の著者・川代紗生氏だ。「承認欲求をなくしたいのに、『認められたい』という気持ちをどうしても捨てられない」と葛藤し続け、「承認欲求」から解放される方法を見つけるまでを8年に渡って綴ってきた彼女のブログは、同じ生きづらさを抱える読者から大きな反響を呼んだ。その葛藤の記録をまとめた本書は、「一番言ってほしかったことがたくさん書かれていた」「赤裸々な感情に揺さぶられ、思わず泣いてしまった」など、共感の声が寄せられている。
そんな「承認欲求をエネルギーに変えるためのヒント」が詰まった1冊。今回は、疲れた心に寄り添う本書の発売を記念し、未収録エッセイの一部を抜粋・編集して紹介する。

なぜ「私は仕事ができる」という人ほど生きづらくなるのか?Photo: Adobe Stock

「上司が使えないから仕方ない」という慰めの言葉

私たちは、呪いをかけられている。
それは「自分はできる」という呪いである。
その呪いは、いつまでも私に、私たちにつきまとって、離れることがない。
この頑固な呪いを、私は、いまだに解くことができずにいる。

「上司が本当にカスでさー」
「マジで使えないんだよな」
「また俺がフォローしないといけないんだよ」

社会人になったとたん、そんな愚痴をよく聞くようになった。同世代の友人たちからだ。
会社の同期も、高校、大学の同級生たちも、オンラインでつながっているペンネームとアイコンしか知らない遠くの誰かも、社会の「使えない大人」について愚痴を言っていた。
そしてそんな風に言っているのは、私も同じだった。
「カス」くらいの強い言葉を使わないまでも、愚痴を吐いていた。
けれども思えば、こうやって自分の上にいる人たちの悪口をいうのは、今にはじまったことではない。

職場で一人「できないやつ」がいると都合がいい

学生の頃からそうだった。
だって、私がアルバイトをしていた職場では、ほとんど全部の店舗で、上司か、店長か、社員は、裏で悪口を言われていた。

だいたいどのお店にも、
「仕事のできない社員さん」
「いつも忙しそうでスタッフの管理ができていない店長」
「訴えても何もしてくれないマネージャー」
のうち少なくとも一人が、存在していた。金太郎飴みたいに、テンプレ通りに。

そしてこれもよくあることだが、どの店舗でもだいたい権力者的なアルバイトスタッフが存在して、その人に従っていればとりあえず大丈夫、的な空気が漂っていたのだった。
誰だって、「仕事ができないやつ」扱いされたくないし、「悪口を言われる対象」にだってなりたくはない。
だから、その職場で「できないやつ」がいると、とても都合がよかった。
なぜなら、彼の(あるいは彼女の)悪口さえ言っていれば、少なくとも自分が「できないやつ」扱いされることはないからだ。

幸か不幸か、私はその職場で誰が権力を握っていて、そして誰が悪口を言われる対象なのかを見極める観察力が、昔からとても鋭かった。
子どもの頃、クラスで何度か除け者にされた経験があるから、そのせいで、まわりの人間関係をよく見る癖がついていた。だから必然的に、誰にどう従えば最低限、「ダメなやつ」扱いされなくてすむか、ということを見極める能力が高くなってしまったのだ。