1 知る〈現状認識〉:現実を直視せよ
――すべてはそこから始まる 

 企業は「環境適応業」である。変化する経営環境に、自社をいかに適応させていくか。これが経営の本質であるといえる。時代の潮流に抗って自ら進化を否定すると、勝ち残りどころか生き残りすら難しい。変化を拒み、自社が提供する商品の現状維持にこだわると、いずれマーケットから退場を迫られるだろう。企業が環境不適応状態に陥るのを防ぎ、ファーストコールカンパニーに至る道を進むには、環境の変化を見据えて「勝てる場の発見と勝てる条件を整備する」ことが欠かせない。

 したがって業種・業態、規模(年商、資本金、従業員数)、経営環境にかかわらず、いかなる企業のリーダーも決断を迫られる。株式会社の最高意思決定機関は、会社法の規定では株主総会である。一方、業務執行に関わる意思決定機関が取締役会であり、その代表役員が社長(経営者)となる。上場企業の場合は、基本的に合議制による意思決定が行われているが、いずれにせよ意思決定の方向性や最終決断は、経営者である社長自身が下さなくてはならない。 

 その大前提として、会社(組織)内のさまざまな課題を、必要な切り口で整理することがきわめて重要である。とはいえ、「灯台下暗し」ともいうように、自分自身(自社)の本質的な課題について、実は自分自身(自社)が最も把握していないことが多い。

 前述したように、材料がそろっているなかで物事を決めることを「決定」といい、材料が不十分ななかで物事を決めることを「決断」という。今、経営者が求められるのは決定ではなく、決断である。先行きが見えない不確実な時代においては、“暗闇”のなかを手探りで進まざるを得ないからだ。

 情報がなく、確信を持てないなかで決めるのであれば、現状認識は不要ではないかという見方をする人がいるかもしれない。しかし、それは誤りである。決断であっても現状認識は必要だ。なぜなら、現状認識とは単なる情報収集のことではなく、自社を取り巻く問題の本質をつかむことをいうのである。「問題の本質は何か」が的確につかめないと、見当違いの対策ばかりが出てくることになり、当然ながら成果につなげることはできない。

 現状認識においては、まず素直に事実をあるがままにつかむことから始めなければならない。この「あるがままに」というのが、なかなか難しい。人はどうしても既成概念(従来の常識・枠組み)や固定観念(思い込み・先入観)にとらわれてしまう傾向がある。また、「事実の選択」も問題である。無数にある情報のうち、大切な事実をどのように収集するのか。価値ある事実を捉える目の鋭さが、現状認識を成功させる鍵となる。

 現状認識の鍵を握るのは、トップマネジメントである。経営者の視野が狭かったり、変化に対して後ろ向きだったりすると、トップ一人の一回の判断ミスや消極姿勢が組織全体を間違った方向へリードすることにもなりかねない。したがって、経営者は変革に向けた課題として「戦略テーマ」を設定し、それぞれで施策を検討して中長期ビジョンや年度方針に織り込んでいく必要がある。これは換言すれば、経営トップが自らイノベーションを起こすと意思表示すべき最も重要な挑戦テーマとなる。

 変革への戦略テーマについて検討し(時流に合わせて項目は変更してよい)、イノベーションを起こすことに挑んでいただきたい。

「知・選・行」の「選ぶ〈価値判断基準〉」「行動する〈突破口〉」のフェーズについては、次回、連載第2回で説明していく。