典型的なサラリーマンが書いた
『定年1年目の教科書』

 現在はセカンドキャリア研修の講師を務め、個人事業主として働いている高橋氏。そんな彼が『定年1年目の教科書』を執筆した背景には、自身の経験が大きく関わっている。

書影『定年1年目の教科書』『定年1年目の教科書』(高橋伸典/日本能率協会マネジメントセンター)

「私は、57歳のときに長年勤務していた製薬会社の『早期退職募集』に手を挙げました。新卒で入社して、転職も副業もせず会社一筋で働いてきた、典型的なサラリーマン。退職後の参考になればと思い、“定年本”を何冊か読みましたが、どれも華々しい経歴の著者が執筆されていて、あまりピンとこなかったんです。今回、縁あって執筆の機会をいただいたので、自分の本では私の失敗談や困ったことを元に、より身近な内容になるように心がけました」

 そんな高橋氏は、早期退職後に再就職。さらに定年退職後は嘱託社員や業務委託など、さまざまな働き方を経験した。フットワークの軽さに驚くが、その道は試練の連続だったという。

「まず、再就職先で大きな壁にぶつかりました。成果を上げているはずなのに、上司に認めてもらえなかったんです。それを親しい友人に相談すると『あなたは自分勝手で偉そうなところがあるから、上司にもそんな態度で接したんじゃないの?』とズバリ指摘されたんです。その言葉が胸に突き刺さり、自戒するきっかけになりました。その後、会議で謝罪をして上司との関係を修復。つらい経験でしたが、あの試練がなければ今の自分はいないですね」

 著書には、そんな彼の赤裸々すぎる体験談をはじめ、好印象を持たれるシニアの特徴や仕事の探し方、セカンドキャリアを謳歌(おうか)する先輩へのインタビューが多数掲載されている。

「自分の経験を振り返りつつ、さまざまな先輩に話を聞いて実感しているのは『定年は不安ではなく希望だ』ということ。私は定年を迎えたとき、男手ひとつで幼稚園から育てた子どもが社会人になりました。貴重な経験を積ませていただき、いま次のステップに向かっています。さまざまな試練もありましたが、乗り越えた今は、それらは自分を高める良い経験になっています。ぜひ、今60代のみなさんも残された試練をクリアして、新しいステージを楽しんでください」

 夢を持ち、なりたい自分を目指す。それこそがセカンドキャリアを楽しむ秘訣(ひけつ)なのかもしれない。

高橋伸典
同志社大学卒業後、34年間製薬会社で営業、人事、社員教育を担当する。57歳で早期退職し再就職するも、多くのつまずきや苦労を経験。しかし試行錯誤を重ねて乗り越え、リスクなく独立する道をつかみとる。その定年活動がメディアに注目され、現在はセカンドキャリア研修の講師などを務める。2022年に『定年1年目の教科書』を上梓(じょうし)した。