未来シミュレーション表で
定年後の収支を見える化

 定年後には「再雇用」や「再就職」「独立」など、さまざまな進路が広がり、選択肢の多さも悩みの種となる。高橋氏が定年後の方向性が定まっていない人に勧めているのが「未来シミュレーション表」の作成だ。

「その名の通り、自分の未来をシミュレーションする表です。まず、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳を横軸にして、縦軸にはその年齢ごとの食費や交際費などの支出額を記載します。これまでの生活費を元に『80歳になると医療費が上がるかも』など、予想しながら試算してみてください。次に、年金収入に加えて『再雇用の場合』『再就職の場合』『独立の場合』と、働き方ごとに収入金額を予想して記入しましょう」

未来シミュレーション項目の一例未来シミュレーション項目の一例。支出項目は、自分の生活に合わせて調整してOK 画像提供:『定年1年目の教科書』から 拡大画像表示

 収支の予想が立つと自分はどの働き方をして、いくら稼げばよいのかが明確になる、と高橋氏。

「生活に必要な金額は人それぞれなので、シミュレーションの結果『年金プラス少しの収入で収支のバランスがとれる』とわかって安心する人も多いです。大まかな試算で問題ないので、最初にシミュレーションしてみてください」

“老後2000万円”という言葉にとらわれず、自分の生活を振り返るのが先決だ。シミュレーションができたら、次に「なりたい自分」や「やりたいこと」のリストアップに取りかかる。

「若い頃と違い、60代になると“残された時間で何をするか”を軸に、キャリアを考えることが大切です。そこで『どんな自分になりたいか』『最終的にどんなことをしたいか』『今後やりたいこと』を紙に書き出してみましょう。リストアップした結果、『社会貢献をし、周囲とも良好な人間関係を築きたい』などの“なりたい自分像”が見えたら、目標を達成するにはどうすべきか、もわかるようになります」

 平均寿命が延びているとはいえ、定年後に残された時間は限られている。“なりたい自分”を設定して筋道を立てれば、遠回りせずにすむという。

「健康寿命という言葉がありますが、それ以外に『アクティブ寿命』も存在すると考えています。実体験ですが、私は退職後に目標を決めずに走り出して遠回りをしてしまったんです。若い頃のような気力・体力もないなかでチャレンジを続けるのは難しいので、目標を設定すると近道になるはずです」

 老後にかかる費用となりたい姿を“可視化”して、不安を解消する……これらはすぐに実践できる定年対策だ。また、在職中も将来を見据えて行える定年対策が三つある、と高橋氏。

「ひとつは“本業以外で収入を得る体験”をすること。副業が難しい場合は、フリマアプリに出品して売買を成立させるだけでもOKです。60代前後の人は抵抗感があるかもしれませんが、自分で出品した品物が売れると『本業以外に収入を得る体験ができた』という安心感が得られます」

 二つ目は、会社以外の場所での人間関係作り。在職中に趣味を始めたり、ボランティアに参加したりすると、定年後の“孤立”を防げるという。

「三つ目は、資格の取得です。私は、50代後半で未経験の保育業界に再就職したのを機に、保育士の資格を取得しました。しかし、年を取ってからの勉強は大変だったので、定年を迎えてからではそのハードルはさらに上がってしまいます。その資格が再就職に役立つとはかぎりませんが、資格があると定年後の展開に新たな可能性が芽生えるかもしれません。この三つは、ぜひ早いうちから始めてほしいです」