2018年に経済産業省と特許庁が発表した「『デザイン経営』宣言」を契機に、デザインの力を経営に活用しようという機運が高まっている。とはいえ、技術力を強みにしてきた中小企業にとっては、デザインはあくまで見た目を整える「意匠」にすぎないという認識が根強く、経営戦略上の優先度は低いままだ。そんな企業に向けて、「エンジニアリングを突破口にしたデザイン経営」を提案するのが、技術系中小企業のデザイン経営導入に精力的に取り組むデザインエンジニアの登豊茂男氏だ。登氏が推進した経営変革の事例を通じて、デザイン経営の具体的なアプローチの方法を語る。
「デザイン経営」に二の足を踏む中小企業
技術系中小企業の経営者から、「デザイン経営には興味があるが、わざわざデザインに割くリソースがない」とか、「自社のビジネスはデザインとは縁遠い」という声をよく聞く。デザインよりも、製品の機能設計や、量産体制の確立・維持に欠かせないエンジニアリングの方が経営にとって重要なのだから、そこに経営資源を集中させたい──。このような経営者の考えは理解できるのだが、エンジニアリングとデザインの両面からさまざまなビジネスに関わってきた私の経験では、実は優れた技術力を持つ中小企業でこそ、デザイン導入の効果は高い。
そこで試してほしいのが「エンジニアリングにデザイン視点を加える」というアプローチだ。あくまで技術に重きを置きつつ、デザイン的な要素を融合させてエンジニアリングを推進することで、製品開発や市場開拓の射程を広げていく。こうしたプロセスを踏めば、デザイン部門を持たない技術系中小企業でも、デザイン経営がスムーズに実現することが多いのだ。
このプロセスは私自身のキャリアにも重なっている。私はデザイナーといっても美術大学出身でもなければ、デザイン部門の経験もない。たたき上げのエンジニアとしてキャリアを積む中でインダストリアルデザイナーを志し、「デザインエンジニアリング」を実践するようになった。つまり、デザイナーとしての活動の土台にエンジニアリングがあるのだ。こうした経験を生かし、今、主に技術系中小企業のCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として経営に関わるアドバイスを提供したり、製品開発や事業開発のサポートをさせていただいている。
本稿では具体例として、埼玉県の自転車用ブレーキメーカー「唐沢製作所」のデザイン経営を紹介したい。私は、まず製品デザイナーとして同社と接点を持ち、やがて受注システム構築などのビジネスデザインも手掛けるようになった。現在はCDOとして経営戦略立案全般に関わっている。