日産自動車のナンバー3、日本電産社長を歴任した関潤氏が、台湾の電子機器製造受託サービス(EMS)世界最大手の鴻海(ホンハイ)精密工業グループへ移籍することになった。昨年9月、日本電産の永守重信会長と袂を分かった関氏の進路が自動車業界では注目されていた。ホンハイが関氏を招聘した理由はどこにあったのだろうか。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
ホンハイ「半導体責任者」に続く招聘
関氏は日本電産のカウンターパートに
日産自動車のナンバー3である副最高執行責任者(COO)、日本電産社長を歴任した関潤氏が、台湾の電子機器製造受託サービス(EMS)世界最大手の鴻海(ホンハイ)精密工業グループの電気自動車(EV)責任者として移籍することになった。
昨年9月、関氏が業績未達を理由に日本電産社長を実質的に"解任"された後、移籍先がどの企業になるのか、自動車関係者の間では注目されていた(日本電産の社長を辞した時の舞台裏については、特集『京都企業の血脈』の#1『スクープ!日本電産“社長解任”全真相【前編】、永守会長が関氏に突き付けた「2通の通知書」の中身』参照)。
関氏の新しい肩書きはEV事業の責任者である「CSO(最高戦略責任者)」。ホンハイは2022年通期の連結売上高が6.6兆台湾ドル(約28.3兆円)となり台湾企業として初めて6兆台湾ドルの大台を突破したばかり。そのホンハイが、iPhoneなどのスマートフォンやサーバに替わる“成長ドライバー”として据えているのが、EVと半導体という二大事業である。
ホンハイでは昨年11月、世界最大の半導体ファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)と中国半導体の中芯国際集成電路製造(SMIC)の幹部を歴任した蒋尚義氏を半導体事業の責任者(CSO)として招聘したばかり。関氏と蒋氏は二大事業の事業トップとして、ホンハイグループの董事長である劉揚偉(ヤング・リウ)氏にレポートする立場で、実質的に事業の最高経営責任者(CEO)に近い存在だ。
関氏の古巣である日本電産とホンハイグループはEV用モーターで提携している。日本電産の重要顧客企業のカウンターパートに関氏が就任することになったのは、皮肉以外の何物でもない。
関氏は日産時代に購買や生産、中国事業トップを経験しており、ホンハイが関氏を招聘した理由は、EVのような新領域における戦略立案とトップセールスに長けているからだろう。水平分業の舞台が電化製品から自動車へと広がりを見せる中、関氏はその経験値と先読み力を活かし“EV新時代”を切り開く旗手としての役割を期待されている。
日産自動車のカルロス・ゴーン氏、日本電産の永守重信会長、そして今回のホンハイの創業者は郭台銘(テリー・ゴウ)氏。3社続けて強烈な個性を持つカリスマ経営者のもとで仕えることになった関氏。三度目の正直――。今度こそ、総帥が君臨する企業グループで辣腕を発揮できるかどうか。日台の製造業の架け橋となるリーダーとしての働きを期待したい。