日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が、業績の足を引っ張っているとして“糾弾”してきた車載事業が反転攻勢に出ている。電気自動車(EV)向けの電動アクスル事業の黒字化が見えてきたのだ。電動アクスルはEVの心臓部分となる基幹デバイス。トヨタ自動車やホンダら日系自動車・部品メーカーや欧州系サプライヤーもその領域への開発・投資に余念がない。日本電産が精密小型モーター事業で成功を収めた「待ち伏せ戦法」――競合よりも早く投資して先行逃げ切りを図る――が通用するのか。特集『日本電産 永守帝国の自壊』(全7回)の#6では、日本電産の車載事業が抱える二つの「懸念事項」に迫った。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ、副編集長浅島亮子)
“問題児”車載事業で反転攻勢!
EV心臓部品の「量と質」が改善
かねて日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は、車載事業の目標未達に対していら立ちを見せてきた。前社長である関潤氏が“解任”された大きな理由の一つも車載事業の低調としたくらいだ。
だがここにきて、お荷物とされてきた車載事業が反転攻勢に出ている。10月24日、2023年3月期の中間決算説明会の席で、車載事業を担当する早舩一弥常務執行役員は「(車載事業の赤字の元凶となっている電動アクスル事業について)来期24年度3月期には単年度での黒字を実現できるのは間違いない」と自信を見せた。
電動アクスルはモーター、インバーター、減速機が一体となった電気自動車(EV)向け部品で、EVの心臓部分となる基幹デバイスだ。自信の根拠は、電動アクスルの「量と質の改善」、すなわち生産台数の引き上げとコスト削減の見通しにある。
まず生産台数では、23年度に約120万台、25年度に約400万台の実現が可能としている。ちなみに、19年4月に電動アクスル事業に参入して以降3年半で、採用車種の販売台数がようやく累計約55万台に達したところだ。それを来期は年間120万台を量産する規模へ引き上げというから、増産計画は極めて野心的である。
次に、コスト削減の見通しが立ったことだ。この9月から第2世代の電動アクスルを投入。この新製品は重希土類フリーとするなど原材料費を徹底的に削ることに成功した。電動アクスルを売れば売るほど赤字幅が拡大していたステージからようやく脱却できる見通しが立ったのだ。利益率の上昇が期待できることから、電動アクスル事業の累損解消は26年3月期に迫っている。
問題児の赤字解消をばねに、日本電産は車載事業で大攻勢をかける構えだ。永守氏にも従来の強気発言が目立つようになってきた。9月の前社長の解任時には「後任選びに失敗した」などと反省の弁を述べていたが、電動アクスル事業の巨額投資計画を改めて示すなど、大攻勢計画に関する発信を強めている。
だが、日本電産の車載事業がこれで安泰かといえばそうではない。これまで小型モーターなどの領域で成功を収めてきた“永守流の成功メソッド”が車載事業で通用するかどうかは未知数だからだ。
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