ESGの大きな推進力の一つは金融業界だ。ESGに沿った経営を行う企業には巨額のマネーがグローバル市場を通じて流れ込む。グローバルで活躍できる優秀な人材も、ESG経営を行う企業への入社を志向する。取引先も、ESGに沿った企業活動を行う企業との取引を求める。
企業活動を行う全ての人間が社会の持続性に対する責任を負い、それにそぐわない企業には「人・モノ・金」が流れていかない仕組みを構築している。ESGという切り口を使って欧米なかんずく欧州が構築しようとしているのは、こういう社会空間なのだ。
サステナビリティの取り組みを
社会運動から経済活動へ取り戻す
一見すると、サステナビリティを梃子とした社会の再構築は、道徳性や宗教が源流と認識されがちだ。しかし、欧米(だけでなく多くの国)では、サステナビリティは一つの視座に過ぎず、これを使って構築される時空は常にプラグマティックであるという力学が働く。
我が国では、欧米発のサステナビリティの動きを受動学習し、その道徳性や規範性を強く意識することで、SDGsというスローガンによる社会運動が行われているように思われる。欧米でESGを梃子に企業各社が成長を模索する、プラグマティックな動きとは対照的だ。
サステナビリティの取り組みを、社会運動から経済活動に取り戻すこと。これが日本企業に現在求められる経営姿勢ではなかろうか。
欧米主要国の主だった企業は、ESGという切り口での新しい社会空間の構築でいかに成長するかを考えている。利益を伸ばすため、成長するため、多くのグローバル資金を集めるため、優秀なグローバル人材を集めるため、われわれは「ESGする」必要がある。
次回以降は、ESG経営、TCFD、統合報告書などを戦略的に活用することで、日本企業はいかに「勝つ」ことができるのか、またその実例などを紹介していく。
(フロンティア・マネジメント株式会社 代表取締役 松岡真宏)