エーザイCEOが認知症薬の米国迅速承認に「涙」も、いつもの“内藤節”が鳴りを潜める理由Photo:Diamond
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 最近では、異例ともいえる「土曜日」当日に招集した会見に、舞い上がっていたのかと思いきや、当人は至って冷静だった。

「何の感慨もなく『湿ったかな』という感じ」

 あっけらかんとこう話すのは、エーザイの内藤晴夫CEOだ。年明けの3連休の初日でもある1月7日、東京本社で緊急会見を開き、現地時間6日に米国食品医薬品局(FDA)から迅速承認された米バイオジェンと共同開発する早期アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ」(一般名=レカネマブ)について説明した。内藤CEOによると、吉報がもたらされたのは、7日午前4時頃。就寝していたところにアイヴァン・チャン常務から携帯電話に着信があり、「コングラチュレーション」と言われたという。そのとき「涙が1滴出た」と明かしたが、いつもの“内藤節”は鳴りを潜め、冒頭のあっさりした発言にとどまった。

 内藤CEOといえば、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏ばりに会見の舞台を練り歩き、文字と図表がぎっしり詰まった同社独特のスライドを言い澱みなく解説する姿が常だった。ときに流暢な英語を交えるほか、心情を露わにすることも多々見られた。

 例えば、19年10月の説明会では、同年3月に試験中止勧告を受けたものの、何とか米国申請に漕ぎつけたAD薬「アデュヘルム」(アデュカヌマブ)に関して、「もう死ぬんじゃないかな、という感じの思いを2回した」と吐露した。22年3月のオンライン懇談会では、同社の治療効果予測アルゴリズムに関するアナリストによる質問攻めに対し、「技術論過ぎるよ」「それは別に聞いてくれないかな」と不快感を口にした。

 最近でこそ会見時にはオンライン視聴者のために座って話す内藤CEOだが、この日改めて涙の意味について問われたところ、「普段なかなか涙は出ない」と回答。第III相試験「Clarity AD」が好結果を収めたときも「涙は出なかった」と振り返ったが、感情的な言葉はなく、ただ「承認というのは大変なこと」として「感慨はある」と後付けで語ったくらいだった。