『源氏物語』に見る光源氏の変化
たられば：今回、『あさきゆめみし』全巻と『源氏物語』を読み直したのですが、実はこの話には前段があって。光源氏も歳をとると涙もろくなるんですよね。
ある飲み会で、そのことを彼が「柏木君に笑われてしまったよ、あはは」と返している。『源氏物語』には、現代の僕たちが読んでも「あるあるだなー」と思う場面がたくさんあるのですが、この「あるある」の使い方が非常にいやらしい（笑）。
西：（笑）。
たられば：ピンポイントで攻撃してきますから。それと、光源氏自身が、若い頃に父の後妻を横恋慕で奪い取っているんですよね。ここで描かれているのは、自分がやったことを他人にやられたとき湧いてくる怒りなんです。光源氏が攻撃しているのは、柏木というよりむしろ自分なのではないか。若かった自分と今の老いた自分を比較してしまい、怒りが激しくなっている気がします。
これを読んで、年配者が若者たちに攻撃的になって「老害」化してしまうのは、自分自身への不甲斐なさや、かつてとは違う自分を受け入れられないからではないかと感じました。
西：畑正憲さんのエッセイ『ムツゴロウの青春記』にも、歳をとると、我が子が自分の人生を再度やり直しているような嫌な感じに遭遇するという表現があって。
自分はとっくに卒業した若き日の苦しみや悩みを、続く人たちが今また抱え、見せつけてくる。なぜお前らはうまくやれないのか、とイライラする。光源氏にしても、「俺は確かに父の妻を寝取ったかもしれないが、あのとき俺は死ぬ覚悟で恋をしていたんだ」と。
たられば：ちゃんと苦しんだのだと。
西：そう。お前もその覚悟があるのか、と思うわけです。俺はこんなに苦しんだぞ、お前だって相応に苦しめ、といういやらしさが……。
たられば：まさに老害。
西：自分は頑張ってここまで来たんだから、お前も同様の苦しみを味わうべきだ、という年長者って、結構いるじゃないですか（笑）。
たられば：面白いですね。TwitterSpacesのイベントでは老いを肯定的に捉えた人が多かったのですが、老いのダメなところをきっちり挙げてくるあたり、西先生さすがだなあ（笑）。
西：いえいえ（笑）。
古典文学から漫画や政治問題まで、さまざまなツイートで人気を得ており、フォロワー数は20万人を超える。本業は編集者。
川崎市立井田病院 腫瘍内科 部長。一般社団法人プラスケア代表理事
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、2007年から川崎市立井田病院で総合内科／緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。また一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」「社会的処方研究所」の運営を中心に、地域での活動に取り組む。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『だから、もう眠らせてほしい（晶文社）』『社会的処方（学芸出版社）』などがある。
（※本原稿は、2022年8月20日、21日に開催されたオンライン配信を元に記事化したものです）
