まだこの時点では対象者が反社とは決まっていませんが、調査の当日に現場付近で相談してくる内田弁護士は、私が断らないことを見越していました。弁護士と数年の付き合いを経て、信頼を重ねた結果の協力関係は探偵にとって業務上大切なことで、さまざま寄せられる相談をいち早く解決するためには弁護士とのホットラインが絶大な威力を発揮します。探偵十年戦士にはこういった弁護士の存在はあるあるなのです。

 私は山中氏と契約書を交わし調査の段取りを打ち合わせました。内容は1時間後に藤原がこのお店にやってくるので、まずは山中氏が一人で対応し、藤原にお金を渡すところで内田弁護士が同席し示談交渉を進める。私は合流したパートナーと店外で待機し、藤原の移動方法がはっきりしていないので徒歩とバイク両面での尾行に備えるというものでした。

脅迫男は反社グループなのか?
弁護士と交渉後、尾行を開始

 私とパートナーが店外で待機していると、約束の時間を15分ほど過ぎて藤原らしき人物が一人で入店し、山中氏が待つテーブルに着席するのが見えました。ここまでの藤原には周囲をうかがうような行動は見られず、事前に到着して周囲の状況観察もしていなかったようなので、山中氏に対して警戒はしておらず、頭からなめているという心理状態と推察しました。

 内田弁護士の指示で、山中氏が窓際に座ったおかげで藤原の行動は全て把握することができました。山中氏からお金を受け取り余裕の表情を浮かべていた藤原でしたが、内田弁護士の登場によりその表情は一変しました。そこからは内田弁護士のペースで示談交渉は進み、言われるがままにサインをしている様子の藤原からは、由紀恵と思いつきで美人局を行ったという素人臭があふれていました。

 逃げるようにお店から出た藤原は、これまた素人丸出しの行動を取りました。探偵の経験では、美人局のようないかがわしい行いをするような人物は、足がつかないように警戒するものなのですが、なんとお店の目の前に路上駐車してあるレンタカーでもないワゴン車に乗り込み走り出しました。

 都内のように信号が多く渋滞や割り込みが頻繁に起こる交通状況では、車両はバイクに尾行されると振り切ることは困難です。さらに警戒行動も見られない藤原の運転のおかげでとても簡単に追尾することができました。30分ほど走った後、杉並区内の某アパートの駐車場に車を駐車し、藤原は「藤原」と表札のあるアパートの一室に入りました。