マラソンシーズンも終盤に差し掛かった。3月5日には東京マラソンが、4年ぶりにコロナ禍以前の規模で開催される。

青学陸上部所属ランナーの腸内細菌を調査、「ある菌種」が走行タイムを改善Photo:PIXTA

 近年、腸内細菌の多様性が持久運動のパフォーマンスを向上させるとの報告が増えている。

 慶應義塾大学の研究グループは、青山学院大学陸上競技部(長距離)所属の48人(平均年齢20.3歳、平均体重54.8キログラム、平均体格指数19.0)をアスリート群とし、一般男性10人(同22.6歳、59.5キログラム、20.6)を一般男性群として、腸内細菌叢を比較した。さらに、3000メートル走のタイムを得られたアスリート群の参加者25人について特定の腸内細菌と走行タイムとの関連を調べている。

 その結果、アスリート群は一般男性群より腸内細菌叢が多様性に富み、特に「バクテロイデス・ユニフォルミス(以下、B・ユニフォル菌)」が多く存在していた。

 またB・ユニフォル菌の数が多いほど、3000メートル走のタイムが向上。菌数上位者は、8分台前半のアスリートが多かった(日本記録は大迫傑氏の7分40秒09)。

 だとすればB・ユニフォル菌が増えれば、一般男性のパフォーマンスも向上するのだろうか。

 さすがに腸内細菌入りのふん便を移植するわけにはいかないので、研究者らは、次に20~49歳の一般男性について、B・ユニフォル菌を増やす作用が期待される多機能性食物繊維の「αCD(αシクロデキストリン)」を摂る群と、プラセボ群にわけ、8週間後のパフォーマンスを比較した。

 その結果、αCD群は試験開始時と比べ、B・ユニフォル菌が有意に増えたばかりか、フィットネスバイクの10キロメートル走行タイムが10%短縮。また、フィットネスバイクを50分間こいだ後の疲労感も有意に改善していたのである。

 その後の動物実験では、B・ユニフォル菌が産生する酢酸とプロピオン酸が、肝臓での糖新生と運動中のエネルギー源となるグルコースの供給に一役買っていることがわかっている。

 市民ランナーのみなさん、今年のオフシーズンは持久力と走行タイムの向上を狙い、筋トレならぬ菌活を取り入れませんか?

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)