(3)コールドリーディングによるコミュニケーションの操作
コールドリーディングという手法をご存じだろうか。
カウンセラーや占い師、時には詐欺師も使う手法で、さも相手のことを知っているかのように、誰にでも当てはまる事柄を示し、相手を理解していると見せることで、信頼関係を構築する手法である。
なぜ理解を示すのか。それは、人材系企業による「信頼関係の要素」や「組織内の信頼」に関する各種調査でも、「相手からの理解」が常に上位に位置していることからも分かるように、相手への理解を示すことは、信頼を得る上で重要な要素だからである。
コールドリーディングにおいて、例えば「あなたは、自分のやりたいことと実際にやらなければならないことの間でさいなまれ、我慢を強いられた経験があるかもしれません」といえば、誰にでも当てはまるが、受け手としては「私のことを理解してくれている」と思うのではないだろうか。
ただし、これではただのペテンに近い。諜報心理では、この手法を応用して、相手に「理解」を示しつつ、「肯定」し、相手の本質(悩み)を引き出す。
例えば、人脈拡大のために、あなたは大手メーカー勤務・所帯持ちである人物(X氏)と関係を構築したいと考えているとしよう。この人物は、基調の段階でその年齢と役職から昇任の遅さにいら立ちを覚えているようであった。そうであれば、あなたはX氏と一定の関係を築いた後、こういった言葉をなげかけてみてほしい。
「Xさんは“継続して努力できる人”のように感じます。私にはあなたの誠実さが感じ取れます(肯定を示す)。しかし、その努力とは裏腹に、これまで評価されていないと感じてきたこともあったのではないでしょうか(理解を示す)。社会ではそのようなことが往々にして発生します。というのも、こんなことがあったんです(基調で得ている相手の悩みに似た悩みを自ら打ち明け、相手が悩みを話しやすい会話にする)」
この言葉に対し、相手は基調で得た悩みを吐露するだろう。その悩みに寄り添うことで、相手はあなたを信頼し、あなたにとって有効な人脈となるのだ。
これまで長々と人脈の構築について解説したが、最たる部分は以下である。
「相手の弱み(悩み)に対し、人として寄り添い、手を差し伸べる」
ただし、その際、「私が解決しなければならない」などと傲慢(ごうまん)な考えを持ってはいけない。ただ一人の人間として寄り添い、手を差し伸べる姿勢を示すだけでよい。そうすれば、少しずつ、相手は心の内を明かすようになるだろう。
結局、人脈として有効な人物を得るためには、その人の本質に正対し、信頼を勝ち取らなければならないのだ。公安捜査官もスパイも、こうして日夜、人と「誠実」に「真摯(しんし)」に向き合っている。
(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)