地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。著者ヘンリー・ジーが熊本大学で行った特別講義を連載でお届けする。(翻訳/竹内薫)

【世界の知性の白熱講義】人類史を変えた「最もエキサイティングな論文」とは?Photo: Adobe Stock

ネイチャーをワクワクさせる論文

 ネイチャーを本当にワクワクさせるのは、「わあ、こんなこと考えたこともなかった」と思わせるような論文です。

 エキサイティングな論文を手に入れることはよくありますし、実際、面白そうな論文を手に入れるときはいつも、編集者個人が決断するのではなく、大勢の編集者で決めます。

 論文を受け取ったとき、その中には私があまり知らない部分があるはずです。私は世界中の同僚とその論文について議論します。コンテンツ管理システムを導入しているので、世界中の同僚と論文を共有することができるのです。

 サンフランシスコ、上海、ニューヨーク、ワシントン、そして大きなオフィスがあるベルリンの同僚と定期的に仕事をすることになります。

 私はイギリスの東海岸にある小さな町にいます。でも、それは問題ではありません。私たちはどこにいてもいい。

 もうひとつ、私たちは科学者に会うのが大好きです。新型コロナのせいでいろいろ大変になりましたが、私たちは再び学会に参加するようになっています。

 また、研究所を訪問することも再開しています。私はこの2年間は物理的にどこにも行っていませんが、Zoomを使ったバーチャルな研究室訪問を何度か行い、初期段階のプロジェクトについて興味深い話を聞くことができました。

 大学院生やポスドクに会い、質問を受けることもできます。時間のかかる作業ですが、人と直接知り合えるのはとても貴重な機会です。新型コロナ以降の社会のよい点は、職場とほとんど同じように仕事ができるようになったことですが、旅をして、違う文化、違う食べ物、違う環境を体験して、人に会って、いわばオフ・デューティで知り合うことは必要です。

 学会が終わり「これから何をするんですか?」と人に聞かれると、私はいつも「バーでぶらぶらするよ」と答えています。そうして得た友情は、私のキャリアにずっとつながっています。

ある古生物学者との出会い

 とりわけ覚えているのは、ある古生物学者(名前は言いません、X教授とします)のことです。今は引退していますが、彼はキャリアの絶頂期でした。私はアメリカで開かれた古生物学の学会に出席していたんです。それはとてもとても高層のホテルで、大きくて、高くて、細いタワーでした。

 私はエレベーターに乗りました。高層階の部屋からロビーに行くと、古生物学者にバッタリ出会いました。開口一番、「君は実にひどい論文をネイチャーに載せたね」と言われました。「ああ、あなたはX教授ですね? どうです、一杯やりません?」。それ以来、私とX教授は本当に良い友達になりました。

 彼のおかげで、科学とは別に、1960年代のイギリスのロック音楽とか、いろいろなことに興味を持つようになりました。そして、彼はとても貴重な著者、レフェリー、友人、指導者、同僚になりました。そのすべては、私がエレベーターから降りたときに始まった。

 私たちがネイチャーに掲載した、X教授が気に入らない論文について議論したからです。このように、偶然の出会いが実りある結果につながることもあるのです。

 このような偶然の出会いを促すには、できるだけ多くの場所にいて、「ブラウン運動」のように多くの人とぶつかることです。