貧しくなればなるほど、喫煙にさらされ追い詰められる現代社会

 今の受動喫煙防止対策は「ザル」なので、小さな会社では職場でまだスパスパ喫煙している人もいるし、飲食店も個人経営などでは、まだ普通に吸える。こういう会社や店は「そんなにタバコの煙が嫌なら来なきゃいい」みたいなことを言うが、低学歴・低収入の人や若者、女性などの弱い立場の人は「嫌なら断る」なんてできない。

 やっとありつけた仕事という場合や、非正規雇用など雇用主に強く言えない立場なので、心の底では「タバコの煙なんて吸いたくねえよ」と思いながらも「たばこ?全然平気ですよ」なんて調子を合わせている。貧しくなればなるほど、生きていくために、自分の心を殺して誰かが吐いた煙を平気な顔をして吸い続けて、心身が不調になっているのだ。

「このような格差問題の対策をしていこうと考えた時にまず必要なのが“見える化”です。教育歴が短い人ほど受動喫煙リスクが高いという実態がわかれば、どういった人たちを守るための環境整備や注意喚起が必要なのかが見えてきます。今回の研究は、喫煙率を下げていく施策を考える上でも参考になると思います」(前出・竹内准教授)

 今、多くの大企業では職場の禁煙は常識になりつつある。「健康経営」の観点から、社員の禁煙をサポートするような取り組みも進んでいる。

 しかし、日本の全企業数の中で大企業が占める割合はわずか0.3%に過ぎない。ワーキングプアの3人に1人は喫煙者で、低学歴の人ほど受動喫煙にさらされている。日本人の「健康格差」は静かに、だが確実に進行しているのだ。

 たばこの問題は「国民の健康」として語られることが多いが、そろそろアメリカのように「格差」の問題として考える時がきているのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)