最も独立した生命体
つまり、完全にゼロから、自らの細胞の化学的構造を作り出すことができる動物や植物や菌類は、一つもいないのである。おそらく、本当の意味で最も独立した生命体、つまり完全に独立して「自由気ままな生活をしている」と断言できるのは、一見するともっと原始的な感じのものだろう。
たとえば、藍藻(シアノバクテリア)。シアノバクテリアは、光合成をして窒素を捕らえる。海底深くにある活火山の熱水噴出孔から、すべてのエネルギーと化学原料を得ている古細菌も同類だ。驚くべきことに、こうした比較的単純な生き物は、われわれよりも長期にわたって生き延びてきただけでなく、われわれより自立している。
異なる生命体同士の相互依存は、われわれの細胞の根本的な組成にも反映されている。われわれの身体が必要とするエネルギーを作り出すミトコンドリアは、かつてはまったく別個の細菌で、ATP(アデノシン三リン酸)を作る能力を持っていた。
一五億年ほど前に起きた運命のいたずらで、このような細菌のいくつかが、別の種類の細胞の内側に仮住まいを始めた。時がたつにつれ、主である細胞は、「お客さん」の細菌が作ってくれるATPなしでは生きてゆけなくなり、ミトコンドリアは定住することになった。
ウィン・ウィンの関係だったと思われるが、これにより、真核生物の全種族の幕開けとなった。エネルギー供給が安定し、真核生物の細胞は、より大きく、複雑になることができた。このことが、次に、今日の動物や植物や菌類の豊富な多様性へとつながる進化を引き起こした。
(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)
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