日本人にとって、一番みじかな食べ物ともいえる米。「白米は体に悪い」説をよく見かけるようになりましたが、何を基準に選べばいいのでしょうか。
「ここまでデータに基づいて書かれた健康習慣本は他にない」(統計家・西内啓)と評され、話題となっている健康になる技術 大全。本書の著者、林英恵さんが語る「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。本連載では、「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。健康のための習慣づくりに欠かせない考え方や、悪習慣を断ち切るためのコツ、健康習慣をスムーズに身につけるための感情との付き合い方などを、行動科学やヘルスコミュニケーションのエビデンスに基づいて、丁寧にご紹介していきます。今回は、「病気になりたくなかったら、すぐにやめたい食事のルール」についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

病気になりたくなかったら、すぐにやめたい食事のルールPhoto: Adobe Stock

ご飯は白米か玄米かではない

 昨今、巷でも、「白米は体に悪い」説をよく見かけるようになりました。一方で、「玄米は体に良い」ということで、玄米をオススメする記事をよく見かけます。

 日本人にとって一番みじかな食べ物とも言える「米」。これは何を選べば良いのでしょうか?

 中国人女性(*1)、日本人女性(*2)を対象にした分析、日本を含まないアジア、ヨーロッパ等の研究(*3)から、白米の摂取が糖尿病のリスクに関連していることがわかっています。日本人男性では関連が見られませんでした(*2)。

 また、摂取量はアジアに比べて平均的に少ないですが、アメリカの研究でも、白米と糖尿病との関連が指摘されています(*4)。特にアジア人において、白米の摂取量が高いほど糖尿病のリスクが高いことが認められています(*3,5)。研究結果にばらつきはあるものの、このような研究から、糖尿病に関しては「白米は良くない」といわれる理由の1つとなっています。

 しかし、1つの疾患のみで結論を急ぐのは危険です(*6,7)。実際、様々な研究を調べると、糖尿病以外、例えばがん(*8)や心疾患(*9.10)のリスクと白米との関連は認められていません。そして日本の男性、カナダ人を対象にした研究では、白米を食べている人ほど、死亡率が低いというような示唆を与えるものもあります(*11-14)。

 欧米を中心にした研究では、精製されていない穀物である全粒穀物が健康に良いことは、多くの研究結果により支持されています(*15)。ただし、ここでいう「全粒穀物」はお米に限らず様々な穀物を含んでいることに注意が必要です。

 一方で、白米のような精製された穀物が、糖尿病以外の疾患や死亡のリスクを増やすという結果は認められていません(*16,17)。このあたりが、一概に「白米は体に悪い」と言い切るのが難しい理由です。

玄米は残留農薬などのリスクに気をつける

 また、玄米も健康に負の影響を与える可能性があります。精白しないことで胚芽に残ったままのカドミウムやヒ素、残留農薬が健康に悪影響を与える危険性が指摘されています(*18,19)。

 白米や全粒穀物の摂取と健康の効果については、欧米の外では研究成果がばらついています(*20)。また前に紹介したように、日本の食事ガイドラインに沿った食事をしている人ほど死亡率が低いと報告されています(*21)。

 食事ガイドラインでは、穀物は全粒か否かは関係なく、ある程度の摂取が推奨されています。エネルギー摂取量過多となるのは例外として、お米を食べるにしても、それに伴う食事全体が大切ということだと思います。

 何が良い、悪いとはっきり言えれば簡単なのですが、なかなか一筋縄では行かないようです。

 玄米が好きという方もいれば、白米でないとご飯を食べた気がしない、という方もいるでしょう。また、パンやそばが好きだという方もいるかもしれません。

自分の健康にとって優先すべきものとは?

 その上で、大事なことは、自分の健康を考えたときに、優先すべきことを考えてみることです。例えば、糖尿病予防や健康を維持することは大切なので、日々食べるものを全粒穀物にした方が良いと思う方もいるでしょう。一方、やはり、白米が何より好きなので白米を食べ続けたいと思う方もいると思います。

 私は、日々の食事の基本は全粒穀物(玄米を7割、他の穀物を3割程度)にして、季節によって1週間に数回、白米を食べることにしています。また、玄米を食べる際には、残留農薬の可能性が少ないものを選んでいます。白米を食べる際は麦を一緒に入れて炊いています。玄米をメインの穀物にする理由は、もともと米が好きで毎日食べるので、毎回の食事で全粒穀物から栄養がたくさんとれるのは、手っ取り早いと感じるからです。また、食べ合わせの観点から考えて、ふっくらとした炊きたての玄米と相性の良い魚や野菜、豆腐や納豆などの発酵食品が好きだからというのもあります。

 日本には、昔から蕎麦や麦、ひえやあわなどの雑穀があります。たくさんの種類の穀物を食べることは、料理のバラエティを楽しむことにもつながります。また、穀物それぞれに何らかの負の効果があるにしても、バラエティに富んだ選択をしていけば、その負の効果もばらけるでしょう。

 一つの穀物だけ食べ続けることで残留農薬などのリスクが発生する可能性もあります。日本はさまざまな穀物が豊富にあります。バラエティに富んだ穀物を食べて、それぞれのリスクを少なくするという考え方も知ってもらいたいと思います。

【参考文献】

*1 Roberto CA, Kawachi I. Behavioral economics and public health. Oxford, U.K.: Oxford University Press; 2015.
*2 Lazarus RS. Emotion and adaptation. New York, N.Y.: Oxford University Press; 1991.
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*4 Lerner JS, Li Y, Weber EU. The financial costs of sadness. Psychol Sci. 2012;24(1):72-9.
*5 Wansink B, Garg N, Inman JJ. The influence of incidental affect on consumers' food intake. J Mark. 2007;71(1):194-206.

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*7 今村 文昭. 医学界新聞 食に関する報道のゆがみ. 医学書院; 2018. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2018/PA03279_05.
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*18 佐々木 敏. 佐々木敏のデータ栄養学のすすめ. 東京,日本: 女子栄養大学出版部; 2018.
*19 Narukawa T, Matsumoto E, Nishimura T, Hioki A. Determination of sixteen elements and arsenic species in brown, polished and milled rice. Anal Sci. 2014;30(2):245-50.
*20 Swaminathan S, Dehghan M, Raj JM, Thomas T, Rangarajan S, Jenkins D, et al. Associations of cereal grains intake with cardiovascular disease and mortality across 21 countries in Prospective Urban and Rural Epidemiology study: prospective cohort study. BMJ. 2021;372:m4948.
*21 Kurotani K, Akter S, Kashino I, Goto A, Mizoue T, Noda M, et al. Quality of diet and mortality among Japanese men and women: JPHC study. BMJ. 2016;352:i1209.

(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)

病気になりたくなかったら、すぐにやめたい食事のルール林 英恵(はやし・はなえ)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/