怒りという毒を中和する

 ここで、インド神話から、天地創造の物語をかいつまんで紹介しましょう。

 あるとき、神々と悪魔が海をかき混ぜて、いろいろな物質を創りだしました。すると、不老不死の薬もできましたが、世界を滅亡させる毒もできてしまいました。神々と悪魔はできあがったものを分け合いましたが、毒を引き受けるものはいませんでした。

 神々と悪魔に助けを求められたシヴァ神は、なんと、その毒を飲みほしました。毒にはシヴァ神の命をも奪う力がありましたが、シヴァ神はヨガ修行者として心身のコントロールに長けており、喉から下へ毒がまわらないようにできたのでした。その結果、世界は救われましたが、シヴァ神の喉は毒によって青くなりました。それからというもの、シヴァ神は別名「ニールカント(=青い喉)」と呼ばれるようになったのです。

 怒りは、シヴァ神が飲みほした毒と同じです。無理に抑えつけようと飲みこめば、自分が毒にやられてしまいます。また、他人に与えれば、他人を毒で苦しめることになります。怒りの毒は、適切な方法で中和しなければなりません。

 怒りという毒を中和するために唯一頼りになるのが、物事の本質を見極める力(ヴィヴェーカ)です。ただし、怒りが最高潮に達しているときは、見極める力も影を潜めてしまうので、少し時間がかかっても怒りが収まるのを待ちましょう。なぜなら、怒っているときに何か意味のあることをしようとしても、うまくいかないからです。

 仮に、誰かに相談しても、相手が分かってくれなかったら、かえって怒りが増すことになります。無関係な人やものに怒りをぶつければ、後悔するのは自分です。「深呼吸する」「ゆっくり数をかぞえる」などの怒りのマネジメント手法も、ある程度落ち着いてからでなければ効果がありません。

怒りを未然に防ぐには?

 もし、砂漠で流砂に足を踏み入れてしまったら、抜け出そうともがけばもがくほど、かえって深みにはまってしまいます。そうならないためには、はじめから流砂に近づかないことです。怒りもまた、「怒るまい」と抑制しようとすればするほど、怒りのとりこになってしまいます。ですから、怒りを手放す一番の方法は、怒りを予防することなのです。