実際、全国の公衆浴場(温湯、潮湯又は温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設)の数は2万3780施設(2021年度)と2017年度から1000施設以上減少し、長年右肩下がり傾向だ。そのうち一般公衆浴場(物価統制令で入浴料金が統制されている銭湯など)は1993年の1万388施設から、3120施設(2021年度)と7000施設以上の減少ぶりである(厚生労働省「衛生行政報告例」より)。

 こうした温浴業界の厳しい現実を太田氏はこう話す。

「まず、マクロな観点でいうと、レジャーの多様化が影響しています。昔は温泉や銭湯などの温浴施設に行くことはレジャーのメインのひとつでしたが、現在はスマホやゲームの普及でレジャーが多様になり、かつ細分化されました。そのため、かつてより来場者も減少し、温浴施設の経営は打撃を受けています。同様に廃れた温泉地も増えています。サウナブームが起きても、そもそも温浴施設に行く習慣のある人は昔ほどはいないのです」

 かつてレジャーとして温浴施設を訪れていた人たちの多くは現在高齢者になっている。そのため「体力的にも温浴施設に行くのが難しくなっている」(太田氏)という。

サウナブームは都市部だけ
地方の施設への恩恵はわずか

 また、昨今のエネルギーコストの高騰も業界に大きなダメージを与えている。

「温浴業界におけるエネルギーコストの負担は桁違い。重油、電気、ガスを使ってお湯を沸かしたり、サウナを温めたりしますが、少しの値上げで1施設当たり月100万~300万円も負担が増えます。さらに人件費も上がっている状況なので、多くのお客さんが来ない限り、倒産、もしくは売却するしかない本当に厳しい状況になっています。今年は持ちこたえても来年どうか、という施設も多いと思います」

 温浴施設の中でも、銭湯は特に厳しい。銭湯は公衆衛生の観点から物価統制令によって料金が決められており、エネルギーコストが上がっても施設が任意で値上げすることができないからだ。