誰も見たことのない未来から「豊かな暮らし」を探求しよう――。住宅設備大手のLIXIL(リクシル)が、「SFプロトタイピング」を活用したユニークな未来共創プロジェクトに取り組んでいる。2023年2月に、家が生き物のように代謝する未来を描写したSF小説2篇を発表。「未来共創計画――FUTURE LIFE CREATIVE AWARD」と銘打って、作品からインスパイアされたアイデアを形式不問で公募し、優秀作を形にしようというのだ。一連のプロジェクトを主導した同社の羽賀豊氏と浅野靖司氏、プロジェクトパートナーとして協働したアノンのアートディレクター・青山新氏の3人に、その狙いや手応えを聞いた。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
過去からの鎖を断ち切る「SF」のパワー
藤本 まず「未来共創計画」を立ち上げられた背景や狙いをお聞かせください。
浅野 大きく二つあります。一つは「LIXILのイノベーティブな姿勢を対外的に打ち出したい」という広報的な狙いです。LIXILでは新規事業開発に力を入れており、羽賀は建材や外構関連事業、私は水回り関連事業で、さまざまな新規ビジネスを立ち上げてきました。しかし、こうした動きがあまり認知されていないので、もっと積極的に発信していこうと。もう一つは、新しい領域開拓に取り組んでいるわれわれ自身が「既存の発想から脱却するきっかけ」を求めていたことです。
藤本 特に「SFプロトタイピング」という手法に注目されたのはなぜでしょう?
羽賀 デザインシンキングなど、優れた課題解決手法は他にもありますが、私たちはどちらかというと、目の前の課題解決より「次のビジョン」が欲しかった。そのためには、既存のプロセスやルールといった慣習をいったん忘れなくてはいけない。「SFプロトタイピング」には、こうした鎖をズバッと切るパワーがあると思いました。「SF」という言葉で「忘れてよし!」というスイッチが入るというか。
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浅野 いくら新しいことをしようと思っても、ビジネスとして差別化するには「強み」が大事だし、「強み」は過去とひも付いているので、どうしてもフォーキャスト的な思考になってしまいます。そうではなく、徹底してお客さま視点で考えるには、ちょっと先のお客さまの生活をイメージして、そこから生み出すべき価値を逆算して考えるバックキャスト的な思考が必要です。今回は、SFプロトタイピングで「ちょっと先」どころか100年ぐらい先まで一気に考えたことで、ビジネスの在り方まで見直すことができました。
羽賀 振り切った未来からバックキャストすれば、発想の起点そのものが変わります。100年もたてば、社会も、暮らし方も、価値観も変わるし、そうなれば製品やサービスはもちろん、作り方や提供方法も変わって当然です。そんなふうに、思考が自然に切り替わったのです。