ビジネスと環境が調和する未来に向けて

藤本 プロットを読み、ワークショップで議論することで、お二人は自分の中でどんな化学変化が起こりましたか。

羽賀 プロットが予想よりぶっ飛んだ世界観だったので驚きました。使われている言葉も3割ぐらい分からない(笑)。その分、ガツンとした刺激を受けて、率直に「今まで狭い領域しか見ていなかったな」と思えました。

浅野 確かに難解でした。でも、感性が丁寧に表現されていたので、イメージは大いに喚起されました。特に、家や住宅設備が有機物と融合している描写には、「望む未来がここにある!」と感じました。

羽賀 そう、進むべき方向からの光が見えた気がしました。住宅や建設に関わるメーカーとしては、ビジネスを環境問題とどう折り合いをつけるかに常にジレンマがあります。地球の表面を覆う人工物をどんどん生み出しているわけですから。一方、自然界では植物のような有機物が自然発生的に生まれては消えていく――。この完全なるリサイクルに、住宅も近づいていけたとしたら……。

浅野 材料を調達して、加工して……という製造プロセスが、もっと自然発生的になるかもしれない、「作る」から「生まれる」に変わるかもしれない、とイメージが膨らみました。豊かさに必要なものは、既に自然界に潜んでいて、植物のように酸素や水を生み出す家が当たり前になるかもしれないと。

未来視点の「無理強い」から解き放つSF思考の力とは LIXILの未来共創計画浅野靖司氏(LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN 事業企画部 部長)
Photo by ASAMI MAKURA

羽賀 LIXILは、窓やエクステリアを通じて自然と暮らしのつながりについてずっと考えてきた企業です。そして「自然を感じたい」というのは、未来永劫変わらない人間の根源的な欲求だと思っています。すると、私たちが考えるべきは、未来のテクノロジーの仕組みとかじゃなくて、それらを丸ごと含んだ暮らしの場としての住宅の在り方、人間と住宅との対話の在り方ではないか、と思いました。

青山 西洋的な自然観に基づく環境施策が支配的な現状に対して、アニミズム(精霊崇拝)に代表される東洋的な価値観が日本の強みになるのではないか、という議論も出ましたね。そして、小説をブラッシュアップしていく過程でも、技術や仕組みの描写より、登場人物のエモーションや、モノと人間の新しい関係性の描写を掘り下げていきました。

浅野 完成した小説を読むと、手触りや匂い、温度などの感覚が深く描写されていて、こんなふうに住宅と対話できる未来が来ればいいな、と改めて思いました。