「いい意味で無責任」に未来を語る場をつくる

藤本 今回のプロジェクトには、SFプロトタイピングに詳しいコンサルティング企業のアノンさんがパートナーとして参加されています。プロジェクトの経緯を青山さんから教えてもらえますか。

青山 キックオフは2022年8月でした。まず浅野さんと羽賀さんにヒアリングし、その内容を踏まえて、2人のSF作家にプロット作成をお願いしました。このプロットを題材にしたワークショップを2回開催して「ビジョンステートメント」を策定。ビジョンステートメントの世界観を表現した小説の執筆を、SF作家である人間六度(にんげんろくど)さん、柞刈湯葉(いすかりゆば)さんに依頼し、23年2月に『持続可能の土塊(つちくれ)』『我が家の壁内細菌フローラ』の2篇を公開しました。

未来視点の「無理強い」から解き放つSF思考の力とは LIXILの未来共創計画青山 新(アノン アートディレクター)
Photo by ASAMI MAKURA

藤本 半年ほどの取り組みだったのですね。ワークショップには、浅野さん、羽賀さん以外にどんなメンバーが参加していたのでしょう?

羽賀 羽賀と私の部門の若手社員と、広報部門の社員が参加しました。ファシリテーター役の青山さんらを合わせて総勢14~15人です。できるだけ「未来の当事者」に参加してもらおうと、20〜30代を中心に声を掛けました。

浅野 「やりたい人〜!」と呼び掛けて、手を挙げてもらう形です。ワクワクする未来を考えようというプロジェクトですから、「やれ」って指示するのもおかしいし……。

藤本 確かに「ワクワクしろ」って言うのは変ですね(笑)。ワークショップの雰囲気はいかがでしたか。

青山 できるだけ密度の濃い議論をしたかったので、参加者にはあらかじめプロットを読んで質問票に回答してもらうなどの下準備をした上で、ワークショップそのものは90分×2回というコンパクトな構成にしました。議論はとても盛り上がって、浅野さんや羽賀さんの発言に対して、若手メンバーからも「いや、私はこう思う」とか、「こんな課題があるのでは?」という反論や意見がバンバン出ていました。

浅野 ビジネスとしての着地点を考えず、純粋なワクワク感で話せたので、フラットな議論ができたように思います。SFという前提があると「いい意味で無責任」に発言できるんですよね。

青山 ファシリテーターとしても「この場にタブーはない」「どんなとっぴなことを言ってもOK」という共通認識が生まれるように意識しましたが、もともとLIXILさんの事業そのものに、建築という長い時間軸を前提に、プロダクトで今の課題を解決するという両極の視点があったので、そのバランス感覚がいい方向に作用したように思います。